LINKED plus 病院を知ろう
最新の知見に基づく
最良の医療を追求し、
地域の肺がん患者を支える。
愛知県厚生農業協同組合連合会 安城更生病院
西三河南部地域の基幹病院として、日々多くの患者を受け入れている、安城更生病院の呼吸器内科。
疾患は気胸、喘息、肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など多岐にわたるが、最も多いのは肺がん。
入院患者の約8割を、肺がん患者が占めているという。
地域のがん診療連携拠点病院として、肺がん診療に情熱を注ぐ、呼吸器内科の取り組みを追う。
「右肺ハイセンブ尖部の影が少し大きくなったように見えるけど、原因は何だろう」「この患者さんは放射線治療を始めたところだよね」「他の検査データも見てみよう」----医師たちは、専用モニターで入院患者のレントゲン写真を見ながら、活発に意見を交換する。
これは、安城更生病院の呼吸器内科で行われるフィルムカンファレンスの一コマである。同院では8名の医師に研修医も加わり、毎日午後4時から、入院患者のレントゲン写真の読影と検討会を行っているのだ。診療科全体のカンファレンスは一般的だが、毎日欠かさず行う病院はそれほど多くないだろう。「実は私が研修を受けていた病院で行っていたもので、とても良いので、私が部長に就任した平成15年に取り入れたんです」。そう話すのは、呼吸器内科代表部長(呼吸器センター長を兼任)の原 徹だ。毎日行うメリットはどこにあるのか。「一つは、教育です。画像診断の基本であるレントゲンで、病変を見落とすのは専門医として論外です。大勢でフィルムを見ることにより、若い医師たちの読影力は目覚ましく向上します」と原は話し、こう続けた。「もう一つは、科としてのチーム医療の質の向上です。毎日変化する症状を全員で共有し、検討することで、ベストの治療を提供しています。また、病棟だけでなく、外来で治療方針に迷うケース、手術の適否に迷うケースなどもみんな、この場で議論し、全員で判断しています」。
呼吸器内科の診療で、原がモットーとしているのは、こうしたカンファレンスで医療レベルを引き上げつつ、最先端の診療を追求することだ。まず、最初の診断では、胸部CT検査に加え、全身を調べるPET―CT検査も行い、早期がんの陰影も決して見逃さない。そこで肺がんが疑われた場合、超音波気管支鏡(EBUS)など最新の医療技術を駆使して、確定診断を行う。その後の治療体制も充実している。「早期がんは呼吸器外科へ繋ぎ、手術します。手術適用ではない進行がんや高齢で手術できない場合は、放射線治療、薬物療法(抗がん剤治療)になります。近年注目の免疫チェックポイント阻害薬(免疫細胞に働きかけて、がん細胞を攻撃する薬)も含め、最新の知見に基づく治療を提供しています。その内容は、どこに出しても恥ずかしくない水準だと自負しています」と原は胸を張る。
肺がんの治療法は、日進月歩で進んでいる。だからこそ、原は常に肺がん診療の最先端へ目を向ける。「都心でないといい治療が受けられないのでは、地域の患者さんに不利益です。ここ安城でも、最先端の検査・診断・治療が受けられる環境を用意することが、当院の使命だと考えています」(原)。
最先端の診断・治療体制を備える同院だが、それでも肺がんはがんの死因トップであり、克服することが難しい病気だという。「肺がんはがんのなかでも、早期発見・早期治療の体制が確立されていない分野なんです。肺そのものは痛みや苦しみを感じることなく、非常に症状が出にくい。他の臓器に転移し、そこで症状が出て、初めてわかることも多いです」と原は話す。その一方で、早期発見により予後が改善するのも事実だ。「早期に手術すれば、肺がんの5年生存率は80〜85%に達します。いかに早く発見して、根治性の高い手術に繋げるかが重要なのです」。
早期発見・早期治療を実現するには、同院では検査技術を高め、早期診断をどこまでも追求している。但し、それだけでは不充分だと原は言う。「早期発見のためには、まずは患者さんが定期的に健康診断を受けることが大切です。また、地域の診療所の先生方には、少しでも肺がんを疑う症例があれば、即座に紹介してほしいですね」と原は話す。そのために同院が取り組んでいるのが、診療所の先生を招いて行う〈レントゲン読影会〉である。「2カ月に一度、診療所の先生方と症例を持ち合い、読影をしながら検討しています。地域の先生方と顔の見える連携を結ぶ上で非常に役立っています」。
最後に、これからの抱負について聞いてみた。「一言で言えば、たゆまぬ研鑽です。肺がんは毎年診療ガイドラインが変わるほど、治療法が進化します。次々と新しいことを勉強し、常に最新の知見を得るよう努力していきます。また、治療後の生活を支える取り組みも強化したいですね。呼吸器リハビリテーション(疾患による息苦しさを改善する)にも力を注ぎ、患者さんがより快適に療養できるよう支えていきたいと考えています」。肺がんで苦しむ地域の患者の命を救い、その後の療養生活を支える。そのために、原たちの挑戦は続く。
肺がんで亡くなる患者も多く、原はこれまで何度も辛くて立ち止まったという。しかし、それでもたゆまず歩いてこれたのは、「患者を全人的に診て、その人生に寄り添うという呼吸器内科医の仕事にやりがいを見出した」からだ。原は患者の病気だけでなく、心と体を見つめ、より良い答えを探っていく。
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