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LINKED plus 病院を知ろう

看護の力で安心の生活を
支える拠点づくり。

看護をリードする認定看護師たちが考える
これからの病院の姿。

西尾市民病院

超高齢社会を迎え、地域医療は大きな転換期を迎えている。
そして、西尾市民病院もまた、変わろうとしている。そのめざす道について、
現場のスタッフはどんな思いを抱いているのだろうか。
特定の看護分野で高い水準の看護を実践し、
看護師たちをリードしている5名の認定看護師に話を聞いた。

専門的な看護の力を
院内はもちろん地域へ伝えていく。

病院で治す医療から、地域全体で治し支える医療へ。地域医療は方向を転換しつつある。医療の中身も、疾病の完治をめざすキュア中心から、病気を抱えながらも生活の質を維持していくケア中心の医療へと変わってきた。その変化に対応するために、西尾市民病院の認定看護師たちは日々、奮闘している。「入院期間が短くなり、高齢の患者さんを在宅へ橋渡しすることの難しさを感じています。独居の方、老老介護のご夫婦など、皆さん事情を抱えていて、すんなりと帰れないんですね。また、ようやく自宅に戻ってもご家族が介護に疲れ果ててしまうケースもあります」。そう語るのは、摂食・嚥下障害看護認定看護師の畑中英子である。

では、病院から在宅へスムーズに繋ぐには何が必要だろうか。「一つは、当院のスタッフがもっと在宅に目を向けることだと思います。入院は患者さんの長い人生のなかのごく一部に過ぎません。その後の長い療養生活に困らないよう、入院中から生活の視点を持って支援しなくてはなりません。そのためのスタッフ指導に力を入れています」(畑中)。その言葉にうなずいて、認知症看護認定看護師の余語華代は話を続ける。「また、退院して終わりではなく、その後もずっと寄り添っていくことが大切です。たとえば認知症の方が在宅に戻る場合、周囲の方々はすごく不安を持っています。その不安を払拭するために、認知症への適切な対応方法を地域の方々に指導する活動に力を注いでいます。認知症の方が入院中も退院後も、穏やかに生活できるよう支えていくことが目標です」。同院では地域の要請に応え、認定看護師が積極的に地域へ飛び出している。だが、深刻な医師不足が続く同院において、貴重なマンパワーを地域へ送り出すには院内の理解と協力が必要だろう。「確かにその通りですが、医療資源不足に苦しんでいるのは当院だけではなく、西尾市全体です。看護でお困りのことがあれば、私たちが精一杯お役に立ちたいと思います」と、感染管理認定看護師の青木美由紀は話す。たとえば、感染対策を専門とする看護師がいるのは、市内で同院だけなので、青木は他施設から相談を受けることが多いという。「介護施設を訪問して、インフルエンザの予防対策などについてレクチャーしています。頼りにしていただけることがうれしいですね」と青木はほほえむ。

特定の看護分野において、水準の高い看護知識・技術を身につけた認定看護師。西尾市民病院では、その育成に力を注ぎ、7分野にわたり10名の認定看護師(1名は特定行為研修修了)を擁している。認定看護師たちは横の繋がりを持ち、お互いに協力しながら、院内外の看護水準を高めるために活動している。

看護師が多職種を繋ぎ、
生活を守る 拠点を作る。

院内はもちろん、地域においても看護の力を引き上げるべく努力する認定看護師たち。近年は看護専門外来(詳しくはコラム参照)も開設し、地域の人々の相談に幅広く応えている。病院と地域を結び、安心の在宅療養を支えようとする熱心な姿勢は、市民に充分に伝わっているのだろうか。がん化学療法看護認定看護師の高須由江は首を横に振る。「残念ながら、まだまだですね。当院はキュアだけでなく、ケアの手厚さが自慢ですが、理解されていない側面もあります。たとえば、同じガイドラインによる抗がん剤治療なのに、市外の大きな病院に通う方がいらっしゃると非常に残念に思います。私たちならもっと身近に、療養生活をきめ細かく支えていけるのに、という自負がありますから」。

そんな悔しい思いをエンジンとして、高須たちは地域への働きかけに力を注いでいこうとしている。「もっと地域の皆さんに、私たちを、そして、当院を活用していただけるようアピールしていきたいと思います」と高須。その言葉に続き、がん性疼痛看護認定看護師の西村かおりは話す。「大切なのは、顔の見える関係づくりですよね。今は当院と地域が、いくつかの〈点〉で繋がっています。それを〈面〉に広げていくような地域連携のネットワークが必要だと思います。そのために退院後の受け皿となる次の病院や施設、そして在宅医療を担う方々と集まる機会を設けていきたいと考えています。多職種で患者さんを支える仕組みを作ることで、市民の皆さんからも、医療・介護にたずさわる方からも、選んでいただける市民病院になれると思います」。

地域全体で患者を支える時代にあって、地域ごとに医療も生活も相談できる拠点が求められている。同院の認定看護師たちは自らが先頭に立ち、看護の力で安心の生活を支える拠点づくりを進めていこうとしている。

西尾市民は約17万人。そのうち、4人に1人が65歳以上だという。高齢者の独居・老々世帯が増えるなか、西尾市民病院は地域へと視線を広げる。病院から在宅へ患者が帰れるように、そしてその後も安心して生活できるような仕組みを、看護師が中心になって構築しようとしている。

  • 西尾市民病院では、認定看護師による看護専門外来を開設している。現在、行っているのは、〈認知症相談〉〈摂食(食べる)・嚥下(飲み込み)相談〉〈感染予防相談〉〈がん療養相談〉の4分野の専門外来。それぞれ週に1回から月に1回、予約制を原則として、さまざまな患者と家族の相談に応え、適切なアドバイスを提供している。
  • 看護専門外来の相談料は無料で、病院の診療報酬に算定されるものではない。しかし同院では地域のニーズに応え、採算を度外視して、病気と共に生きる患者が安心して療養生活を送れるよう支援に力を注いでいる。また、この看護専門外来は、同院の医師不足を補う役割も果たしている。患者の相談内容によって診療が必要と判断された場合、各診療科の医師に速やかに連絡。それぞれの患者が必要とする医療を受けられるよう、診療の水先案内の機能も果たしている。

生活を支える拠点を
育てる重要性。

  • 〈ときどき入院、ほぼ在宅〉と言われているように、病院中心の医療から在宅中心の医療への移行が進められている。地域全体で患者の療養生活を支えていく社会で重要なのは、困ったらいつでも相談できる拠点だろう。療養中に病状が急変すれば、いつでも受け入れる救急医療機能を備え、キュアとケアの両面において退院後の生活を末長く支えてくれる拠点だ。そのことは、超高齢化が進展するこれからの社会的課題ともいえる。
  • 西尾市民病院は、その難しい命題に挑む。認定看護師をリーダーとする看護の力をフルに活かし、安心の生活を支える拠点づくりに取り組んでいる。それはまだ道半ばではあるが、確実に一歩ずつ前進している。このように地域を守ろうとする市民病院の取り組みは、あまり知られていない。しかし、そのことを知り、理解し、自分たちの病院として応援していくことが、超高齢社会を生きる私たち生活者にとって、大切な心がけではないだろうか。

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