LINKED plus 病院を知ろう
麻酔科医が司令塔となり、
高度急性期・急性期医療のパフォーマンスを高める。
大垣市民病院
大垣市民病院は、人口約37万人の西濃医療圏の基幹病院であり、
患者数・手術数とも全国屈指の実力を持つ。
また、大学病院の重要な関連病院として、常に医療水準の向上を図り続けている。
その病院の〈命の砦〉とも言うべきICUで行われている麻酔科医の挑戦を追った。
重症度の高い患者を収容し、24時間体制で集中的な治療と看護を提供するICU(集中治療室)。大垣市民病院ではその機能をさらに高め、平成29年からスーパーICU(特定集中治療室※)として、12床を運用。心臓・大血管、肺、食道や肝臓などの大手術を終えた患者や、体外循環装置、人工呼吸器、人工透析などを要する重篤な患者に高度な医療を提供している。
ここICUで毎日行われているのが、ウォーキングカンファレンスだ。主治医である各科専門医と麻酔科医、看護師、臨床工学技士、理学療法士、薬剤師が連れ立って、患者のベッドをラウンドしながら、個々の治療計画や課題を話し合っていく。たとえば、術後の疼痛を和らげる薬剤について、麻酔科医と薬剤師が知恵を出し合う。酸素療法の器具に改善の余地があれば、臨床工学技士が解決策を示すなど、各専門家がそれぞれの知識を総動員し、高度な集中治療の提供に力を注いでいる。
このウォーキングカンファレンスを導入したのが、麻酔科4年目の横山達郎だ。「以前のICUでは、各科の主治医が中心になって患者さんを診て、必要に応じて麻酔科医が協力する体制でした。でも、それでは、不充分でした。多職種が知識を出し合う場を提供することで、チームで患者さんを診ることができる。そうすることで、より高度な術後の全身管理や疼痛管理ができるのではないか、と考えました。そこで、コメディカルスタッフを誘ってチームを作り、みんなで一緒に活動を始めたのです」と横山は話す。医師単独ではなく、チームで活動するメリットはどこにあるだろうか。「やはり医師だけでは知識が偏るんですね。みんなの専門知識を持ち寄り、情報共有することで、より良い治療の糸口が見つかります。各科の先生にも、より説得力のある提案ができていると思います」。ICUでは、主治医のコンサル(相談)を受け、麻酔科医、スタッフがディスカッションするシーンも度々見られる。各科の医師にとって、ICUのチームは頼りになる存在だ。
こうしたチーム医療に、スタッフも手応えを感じている。「どの職種でも遠慮なく意見を言い合えるオープンな雰囲気で、いい刺激を受けています。明らかに患者さんの鎮痛・鎮静管理も向上しました」と、集中治療室の看護師長、藤井有里は話す。
※ 特定集中治療室は、より質の高い集中治療を提供するため、職員の配置や施設基準が細かく規定された施設。
ICUの多職種連携チームは、スタッフの教育の場としても重要な役割を果たしている。「どうすれば、より安全に全身を管理できるのか。一人がアイデアを出せば、他の人からもいい意見が飛び出します。多職種が集まり、自分とは違う視点や専門知識を学び合うことで、全員が成長しています」と横山。
横山が麻酔科へ進むことを決めたのは、同院での初期研修を終える直前だった。それまで横山は外科を志望しており、多くの症例に携わり、メキメキと力をつけていた。しかし、あるとき考えた。「この病院には手術に秀でたスーパードクターはたくさんいるが、麻酔科医は不足しており、外科医が麻酔をかけることも多い。もし自分が麻酔科医になってスーパードクターを支えられたら、病院のパフォーマンスが上がり、より多くの患者さんの命を救えるのではないか」。そう気づいた横山は、迷わなかった。「自分がやりたい分野より、自分が必要とされる分野でとことんやってみよう」。そう決意を固めた。
それから横山は後期研修の2年間、手術室での麻酔に従事。その後1年間、大学に戻って研鑽を積み、今は再び同院で、ICUに重点を置いてスキルを磨く。その先に、横山がめざすものは何だろうか。「一番力を入れたいのは、教育です。僕は、麻酔科医の教育拠点は大学だけではなく、地域ごとに必要だと考えています。西濃医療圏では当院が拠点病院となり、実践を通じて、一人でも多くの麻酔科医を育てていきたいですね」と意欲を語る。さらに横山は「すべての研修医に全身管理の基本を学んでほしい」と話す。「たとえばICUのチームは、研修医にとってかっこうの学びの場です。難しい症例に触れ、命を守るための最先端の知識・技術を学ぶことができます。それに、多職種が互いに高め合うというチーム医療の醍醐味も実感してもらえると思います」。
最後に、横山に麻酔科医の魅力を聞いた。「麻酔科医は患者さんの意識がないときに関わるため、患者さんからお礼を言われる機会はありません。その代わり、ドクターズ・ドクター、つまり〈医師の相談にのる医師〉として信頼される喜びがあります。何かお手伝いして、他科の先生方から〈ありがとう〉と言われるのが、何よりのやりがいです」。
麻酔科医として着実に歩む横山。「当院には卓越した手技を持つスーパードクターはたくさんいますが、僕自身は、その一人をめざそうとは思いません。そうではなく、スーパードクターを支え、病院全体のパフォーマンスの向上に資する医師になりたいし、そういう医師を一人でも多く育てたい」と話す。
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