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安城更生病院
高度急性期病院としての腎臓病への取り組み。
腎臓病専門診断、透析導入、急性増悪、救急を守る。
2019年12月7日、安城市に住む70代の男性が、息子とともに、安城更生病院第一会議室を訪れた。会場には、すでに住民らしき人が何人も集まっている。どの顔も少し不安げだ。男性がここに来たのは、かかりつけの診療所医師から「腎機能が落ちているね」と言われ、安城更生病院腎臓内科〈慢性腎臓病教室〉への参加を勧められたからである。
午前10時きっかり教室がスタート。医師による腎臓病治療のポイントをはじめ、看護師、薬剤師、栄養士らの多職種からは、生活、薬、栄養など、腎臓病について多岐に亘る話が続いていく。どの説明もわかりやすい。心構え、日々の暮らし方など、男性は徐々に話に引き込まれるうち、予定の2時間が終了。「腎臓病のこと、きちんと知ることが大事だな。来てよかったわ」と息子に言いつつ、ゆっくりと席を立った。
〈慢性腎臓病教室〉は2007年スタート。毎年6回開催し、これまでに2200名あまりが参加している。教室開催の目的を、副院長の玉井宏史(日本腎臓学会 腎臓専門医・指導医)は「腎臓病の正しい知識を持っていただくこと」だと語る。「腎臓病と聞くと、誰もがいつかは透析治療と思い不安が募ります。しかし、早く発見して正しい治療を進めれば、長い間、透析にはならず、安定した治療もできますし、腎機能も改善する余地があります。そのためには、腎臓病を正しく知ることが必要なんです」。
残念ながら病気がある程度進行した患者のためには、〈腎不全治療法選択教室〉を開いている。ここでは腎代替治療(血液透析、腹膜透析、腎臓移植)の実際を知るために、透析機器に触れる、看護師が患者役となった自主制作動画を見る、疑問点の説明を受けるなど、理解を進めるための工夫がいろいろだ。
玉井は語る。「腎代替療法についても、待ったなしで考えるのではなく、早い段階から具体的な治療法を知ることが、選択肢を広げます。患者さんとご家族が一緒に、ご自分たちの生活にあった治療を選択する。そうした準備が、より良い治療に結びつくと私たちは考えます」。
慢性腎臓病は、尿検査異常や腎障害が3カ月以上続く場合と定義される。成人の8人に1人が慢性腎臓病といわれるほどの国民病であり、患者数は推定1330万人、透析患者数は33万人を超える。
安城更生病院腎臓内科では、増え続ける慢性腎臓病の重症化防止、透析導入への進行阻止を睨んで、果敢な取り組みを行ってきた。現在では西三河南部全体に及ぶ広域圏から紹介患者が集まる。
玉井は、腎臓内科の守備範囲についてこう語る。「私たちは紹介患者さんの腎臓病の診断、透析療法の導入部を受け持ち、維持透析はすべて地域の診療所にお願いしています。但し、透析患者さんの合併症治療や重篤な緊急事態に陥ったときは当科でお受けする。こうした役割分担が地域で成立しており、地域との連携のなかで当科は機能しています」。そのため診療所とは密に連携し、新たな情報や知見を提供。前述の教室を活用してもらうなど、地域の慢性腎臓病患者、透析患者を、診療所と一体化し支えている。
一体化でいうと、院内での多職種と医師との関係も特筆すべき点である。医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、臨床工学士らがチームを組み、透析導入患者の治療方針、転院先などを〈合同カンファレンス〉により検討を重ねる。そしてそこには担当医以外の医師も参加。高齢化に伴い、複合疾患を抱える透析患者の手術を含めた治療の検討と実施など、協力関係は固い。
患者の高齢化が進み、慢性腎臓病と合併症の治療を切り離すことはできない。「だからこそ私たちは、院内、地域の診療所とチームを組み、日常的に患者さんを支えることに尽力しています。そこに、患者さんと家族も加わっていただきたい。そうなってこそ、真に地域が一体となった慢性腎臓病治療が実現すると考えます」と、玉井は言葉を締め括った。
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