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安城更生病院
二人の小児科専攻医。
安城更生病院の教育が、求められる医師へと導く。
「主治医になって〈怖い〉と思ったことがありますか?」そんな少し意地の悪い質問から取材を始めた。答えるのは、植田智希と畑下 直。令和元年4月、安城更生病院小児科の専攻医になった。専攻医とは、2年間の初期臨床研修を終え、各診療科でのより高度な知識や技術の修得をめざす医師のこと。2年目を迎えた今は、患者の診療全般に責任を持つ主治医にも就く。
植田は言う。「日々、怖いですね。検査データの値が跳ね上がっているとき、初めて診る疾患のときなど、いろいろです」。畑下は言う。「今までできたことが急に怖くなるときがあります。風邪薬一つ出すにも、この薬で本当に良いのかと考え込んだりもします」。
その怖さは何が理由なのだろうか。「責任です。子どもの命への責任、将来への責任」と植田は言う。「初期研修医のときは、解らないことは誰かに聞けばよかった。それが今は、スタッフの誰もが僕に聞いてくる。自分が決めなくてはと、ときには震えるほどです。でも、この子のことは、主治医である自分が一番解っている。自分が判断できるはずだ、と思う。怖さと責任と自負との狭間にいつも立っています」。「救急でもそれは同じです」と畑下は言う。「救急外来でも、新生児ドクターカーきらりで地域に走るときも、研修医や地域の方々が、私の判断を待っているんです。過去学んだもの、経験したことを組み合わせ、頭はフル回転。瞬時にそれを行う怖さと責任を痛感します」。
怖さと責任と自負の狭間に立ちながらも、二人は学びの日々を続ける。「でもね、怖いと思うとき、振り向くと必ず、上級医や看護師たちが僕を見守ってくれている。みんなで僕を支え、育てようという思い。それはつまり、みんなで良い医療を提供しようという思いが、この病院にあるからなんです」と植田は言う。畑下も頷きながら言う。「診療科間の垣根の低さ、患者さんや医療に対する真剣で、真摯な姿勢。みんな輝いています。医師だけでなく、多職種も同じ。みんなで学ぼう、この病院の医療をもっと良くしよう。そのサイクルのなかで学ぶことができています」。
超高齢社会を迎えた今日、地域医療はキュア中心からケア中心へと、大きく変わろうとしている。すなわち、疾病の治癒を主目的とするのではなく、慢性疾患や障害を抱えていても、生活の質を維持・向上させるための医療提供である。
こうした変革は、医師のあり方にも大きな影響を与える。臓器別・疾患別に特化した知識・技術だけではなく、総合的に、患者のその後の人生を見つめる視線が求められているのだ。それは安城更生病院のように、高次の専門診療を担う地域基幹病院でも例外ではない。いや、安城市の市民病院、地域医療支援病院、医療従事者の教育病院という同院の機能・役割を考えると、より強く医師一人ひとりにその能力がなくてはならない。
植田と畑下は、小児の一般的な疾患を徹底的に学び、今はそれらの知識・技術のさらなる高度化を図りつつ、小児のなかでの専門分野を模索中だ。では彼ら二人は、どんな医師をめざしているのだろうか。
「あたたかい医師になりたい」というのは畑下である。「しっかり子どもや家族の気持ちや訴えを聞き、それを大事に治療する。 私の治療やアドバイスで、ハッピーな気持ちで退院していただける。そしてそこで終わるのではなく、退院後の生活を見守って行ける。そんな医師になりたいですね」。植田は言う。「僕は子どもに近い存在の医師でありたい。子どもと遊びながら、子どもと家族の声を、自分のことのように聞ける医師。日々の生活を見つめ、子どもと家族とチームを組んで、ずっとその子を見守ることができる医師になりたいと思います」。
疾患を学んだ時期、疾患を抱える子どもを見つめる時期、そして、家族の思いを大切と思う時期、その積み重ねのなかで、退院後の生活にも目線を伸ばし始めた今。植田と畑下は、求められる医師になる瞬間を迎えたようだ。
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