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地方独立行政法人
岐阜県総合医療センター
妊娠週数をできるだけ延ばし
後遺症なき出産をめざす。
この日、岐阜県総合医療センターの新生児集中治療室を訪ねると、保育器に入った赤ちゃんが懸命に生きようとしていた。小さな体には人工呼吸器のチューブや点滴の管が取りつけられ、危険を知らせるアラームが鳴るたびにスタッフが駆けつけた。
この赤ちゃんは、3週間前に同院の産科・胎児診療科で生まれた超低出生体重児である。生まれたときの体重はわずか800グラムだった。最初に母親が同院を訪れたのは、妊娠18週目。突然、破水し、救急搬送されてきた。破水すると、羊水がゼロになり、赤ちゃんは息ができなくなる。すぐさま子宮内の細菌検査が行われ、生理食塩水を温めて子宮に入れる〈人工羊水注入療法〉が行われた。それから1週間に1度、炎症が起きて汚れた羊水を洗い流し、新しい人工羊水を注入する処置を繰り返し、何とか妊娠期間を延長。妊娠26週目に帝王切開が行われたのである。
この出産を担当した高橋雄一郎(産科部長・母とこども医療センター長、母体・胎児集中治療室部長)は次のように話す。「最初は非常に危ない状態でしたが、粘り強く治療を続け、出産にこぎつけることができました。生まれた後は新生児内科のスタッフみんなが頑張って、赤ちゃんも今のところ後遺症もなく無事に育ってくれている。こんな嬉しいことはありません」。
産科・胎児診療科では、早産(妊娠22週〜37週未満の出産)や合併症、胎児に異常を抱えた妊婦などを幅広く受け入れ、高度医療を結集してハイリスク分娩管理を行っている。「今、我々が勝負しているのが妊娠22週という週数なんです。残念ながらそれよりも前では赤ちゃんを助けることが難しく、流産になります。何とか22週を超えて出産したいというお母さんの気持ちに応え、早くから治療を開始し妊娠期間を延ばして、後遺症のない出産をめざしています。早産での新生児の予後は厳しいものがありますが、幸い僕らは、冒頭で紹介した事例のように成功体験を持っています。その実績を着実に積み重ねていきたいと考えています」(高橋)。
産科・胎児診療科は、産科と胎児診療科から成り立っている。いずれも2019年、国立病院機構長良医療センターから病院機能を移転。産科・胎児診療に関わる医療資源を同院に集約させることで、より専門性の高い医療を追求してきた。高橋も長良医療センターにいる頃からずっと産科と胎児診療に携わってきた。胎児診療とはどのような診療科だろうか。
「大まかに言うと、子宮内の胎児に対して、先天性の病気があるかどうかを診断し、治療を行うとともに母体を管理していきます。具体的には貯まった胸水を排出する処置、貧血に対する胎児輸血など、さまざまな疾患と治療法があります」と高橋は話す。そして、こうした診療のベースとして重要なのが、「早産管理」だと言う。「胎児に異常がある場合、早産になりやすく、妊娠週数との闘いになります。住まいにたとえると、1階部分が早産管理で、2階が胎児治療。まず早産管理をしっかりしてから胎児の治療を行うことで、ようやく赤ちゃんの命を救うことができるのです」。
安全な分娩の基礎となる、早産管理。その医療の質を高めるために高橋たちが力を注いでいるのは、早産を予防する取り組みである。
「我々のところには、妊娠20週で破水したとか、21週で子宮口が全部開いてしまったというお母さんが救急車で運ばれてきます。そうなる前に、たとえば妊娠初期より出血を繰り返すなどの早産リスクを評価し、予防的な対策を取れば、確実に早産を減らせることができます。当院ではそのための仕組みとして、感染、炎症予防を中心とした〈早産予防プロトコール〉を取り入れ、成果をあげています」(高橋)。
「究極の目標は、後遺症のない出産」と語る高橋。早産予防や胎児治療を通じて、一人でも多くの小さな命を救う同院の挑戦は続く。
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