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地方独立行政法人
岐阜県総合医療センター
治療の難しい肺がん患者を救うために、
呼吸器の専門医たちが全力を尽くす。
肺がんは、気管支や肺胞の細胞が何らかの原因でがん細胞になる病気。肺がんの患者数は年々増加しており、それに伴い、死亡率も上昇。1998年には胃がんを抜いて、肺がんががんによる死亡率の第1位(男性1位、女性2位)となった。
それほど治療の難しい肺がんの診断・治療に、岐阜県総合医療センターの呼吸器外科・内科のスタッフたちは日々、闘いを挑んでいる。呼吸器外科・部長の松本真介に話を聞いた。「肺がんの手術方法はがんの種類や大きさ、進行度、患者さんの状態などに応じて検討しますが、その際、譲れない優先順位があります。それは〈安全性、根治性、肺機能の温存〉の順番です。まずどんな場合も安全に手術を行うことを優先し、その上で可能な限り根治性を追求。さらに、できる限り術後の呼吸機能が低下しないように、肺を温存する縮小手術を積極的に行っています。近い将来、ロボット支援下手術も計画していますが、手術に対する基本的な考え方は一緒です。安全性、根治性、機能温存の順番を遵守して、手術を進めていきたいと考えています」。
呼吸器外科が安全第一の手術を追求する一方で、呼吸器内科は早く正確な確定診断に全力を注ぐ。主任医長の都竹晃文は次のように話す。「胸部X線検査やCT検査で肺がんの疑いがある場合、気管支鏡検査で病変部分の細胞や組織を採取しますが、そこには高度な技術が問われます。当院では、CT検査から作成した患部までの立体的なガイドマップを使用する〈バーチャルナビゲーション〉を開発し、診断率を飛躍的に向上させています」。
〈バーチャルナビゲーション〉とはどのような技術だろうか。「気管支は樹木のように枝分かれしながら徐々に細くなっていきます。その細い道を、カーナビを見ながら運転するように進み、患部に向かってスムーズに気管支鏡を挿入する技術です。非常に短時間で検査できるため、患者さんの負担も少なく、確実な確定診断に繋げています」と都竹は説明する。こうして得られた精密な診断結果に基づき、手術療法、放射線治療、薬物療法を組み合わせて、患者にとって最適な治療法が提案されている。
呼吸器外科と内科がそれぞれの専門能力を発揮し、肺がんに対して良好な治療成績を重ねる岐阜県総合医療センターだが、このコロナ禍で大きな危機感を抱いているという。「がんの病期は進行度に応じてステージ1〜4に分かれますが、長引くコロナ禍で検診の先延ばしや受診控えが続いた結果、ステージ1で見つかる肺がんが減って、ステージ3、4になってから見つかる人が増えています。他のがんと同じように、肺がんも早期発見が決め手ですから、この傾向には非常に問題意識を感じています」と、都竹は話す。
松本も同じ問題意識を共有する。「もう半年、1年早かったら治せたのに...と、悔しい思いをするケースが増えていますね。肺がんはどんなに治療がうまくいっても、早期発見に勝るものはありません。たとえば、進行がんの患者さんにどんなに良い手術ができたとしても、なかなか根治性までは望めないのが現実です」。
肺がんはなぜ、早期発見が難しいのだろうか。「肺がんは早期だとほぼ無症状で、症状が出たとしても、咳、痰、息苦しさ、胸の痛みなど、風邪や肺炎にも見られるものなので、なかなか肺がんを疑うことができないんですね。ですから、積極的にがん検診を受けていただいたり、地域の診療所の先生方に早期に発見していただくことが重要です。先生がちょっとでも疑わしいと思うことがあれば、躊躇することなく紹介してほしいと思います」と都竹。
松本も「肺がん治療において、診療所の先生はすごく重要な役割を担っている」と指摘する。「診療所の先生は、患者さんの病歴や生活習慣まで詳しく把握していますから、少しの体調の変化や、ちょっとしたレントゲン上の異常にも気づいていただけます。そうしたかかりつけの先生方と力を合わせて、この地域全体で肺がんの早期発見・早期治療を実現するネットワークを築いていきたいですね。それが、肺がんと闘う私たちの最終的な目標です」。
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