LINKED plus 病院を知ろう
地方独立行政法人
岐阜県総合医療センター
大腸がん治療の地域拠点病院として、
求められる治療法をすべて用意する。
秋晴れの爽やかなある日、岐阜県総合医療センターの消化器外科を訪れると、数日後に行う大腸がんに対するロボット支援手術に向けてカンファレンスが開かれていた。担当医は、消化器外科部長・外科主任医長の田中千弘と、外科医長の岩田至紀医師である。田中はロボット支援直腸/結腸手術プロクター(指導医)の資格を持ち、同院において大腸がんのロボット支援手術をリードする存在だ。
今回の手術では、田中が指導医、岩田が執刀医として参加する。詳細な手順を確認するために、2人は病巣の画像を見ながら、注意すべきポイントについて話し合った。ロボット支援手術は、腹腔鏡手術(腹部に数カ所穴をあけ、特殊なカメラ、鉗子などを入れて行う手術)にロボット機能を組み合わせて発展させた術式。多関節のロボットアームで手ぶれのない細密な動きが可能になることから、高精度な手術を実現するところが高く評価されている。
同院で大腸がんのロボット支援手術をスタートしたのは、2019年2月。直腸の切除から開始し、2022年には結腸の切除へと範囲を広げてきた。「当院では以前から、泌尿器科においてロボット支援手術の実績を重ねてきました。複数の腹腔鏡技術認定医(大腸領域)が在籍して多くの直腸がん手術を行ってきた当院だからこそ、腹腔鏡手術のメリットをロボットでさらに増幅できるであろうという先進施設の医師からの奨めもあり、私たちもロボット支援手術に取り組むことになりました」と、田中は経緯を説明する。
ロボット支援手術の導入が決定すると、田中は必要な一連のトレーニングを受けるとともに、静岡県がんセンターなどの全国を牽引する施設へ何度も足を運び、最新の技術と知識を習得。最初は経験豊富な医師を外部から招いて安全第一の手術を行うところからスタートし、現在は主に田中と岩田の2名体制により、安全性に最大限配慮しながら多くの手術を施行している。「当院ではこの4年間で、大腸がんのロボット支援手術を約120例行い、いずれも良好な治療実績を収めています。腹腔鏡手術と同様に、傷が小さいため早期に回復することができ、患者さんに喜んでいただいています」と田中は話す。
良好な手術実績を重ねる田中たちだが、「ことさらに、ロボット支援手術をアピールするつもりもありません」と、慎重な姿勢を見せる。それよりも重視するのは、「目の前の患者さんにとって最適な治療法を考えること」だという。
「大腸がんには、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術があります。患部に直接触れる感覚を重視する場合は、開腹手術を選択します。また、患者さんの体型や病巣の位置によって、腹腔鏡手術の方が適していると判断することもあります。ロボットを使うことがベストではなく、患者さんの病状の改善が最も大切なことなのです」と田中は強調する。
さらに消化器外科では、関連部署と連携し、大腸がん診療に多面的に取り組んでいる。たとえば、腹痛の症状や排便困難などの課題がある場合、臨床栄養科と協力して投薬や食事制限などを行い、できる限り人工肛門を回避するよう努めている。また、手術療法に薬物療法や放射線治療を組み合わせた集学的治療に力を入れているほか、遺伝子診療科と協力し、遺伝性大腸がんの診断にも積極的に取り組んでいる。これら多様なアプローチは、豊富な診療科や部門をそろえた同院ならではの強みともいえるだろう。
そうしたなかで、田中はロボット支援手術をどのように活用していく考えだろうか。「ロボット支援手術は、まだ始まったばかりの黎明期にあります。私たちがこれまで10年かけて腹腔鏡手術を普及させてきたように、ロボット支援手術も時間をかけて最適な活用法を確立していきたい。そのために重要なのは、人材育成とチームづくりです。腹腔鏡手術もロボット支援手術も、両方とも安全確実に行える若い術者を一人でも多く育て、消化器外科の体制を強化していく方針です。そうすることで、大腸がん診療の地域の拠点病院としての使命をしっかり果たしていきたいと考えています」(田中)。
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