LINKED plus 病院を知ろう
地方独立行政法人
岐阜県総合医療センター
心臓の病気をもつ赤ちゃんが無事に生まれ、
大人になるまで伴走していく使命。
ある日、岐阜県総合医療センターの小児心臓外科を訪ねると、手術を終えたばかりの岩田祐輔医師(小児心臓外科主任部長・成人先天性心疾患診療科部長)の姿があった。「手術はうまくいきましたよ」。岩田は待ちわびていた家族のもとに駆け寄り、喜びを分かち合った。
この患者は、生後3カ月の男児。胎児の成長過程で、先天性心疾患(生まれつき心臓の構造に異常のある病気)が見つかり、同センターの産科・胎児診療科に紹介。出産することが決まると、すぐに産科・胎児診療科、新生児内科に加え、小児循環器内科、小児心臓外科の医師も情報共有し、治療方針について話し合い、万全の準備をして手術の日を迎えたのだった。「先天性心疾患をもつ赤ちゃんは約100人に1人の割合で生まれてきて、専門治療を行わないと20〜30%は新生児期に、50%は乳児期に死亡するといわれています。でも今は昔と違って、妊娠中の検査で異常が見つかるようになりました。それだけ周到に準備でき、救命率も上がっています」(岩田)。
また、生後数カ月の心臓の手術には、大人の心臓とは違う技術が要求される。「小児用に開発された特別な人工心肺装置を用いる極めて専門性の高い手術ですし、術後管理にも細心の注意が要求されます。ですから、一人の医師の力というよりも、麻酔科や小児循環器内科、臨床工学技士、看護師など小児心臓グループ全体の力、そして、産科・胎児診療科や新生児内科との連携を含めた総合力で立ち向かいます」と岩田は話す。
近年は、手術ではなく、体に負担の少ないカテーテル治療という選択肢も生まれている。桑原直樹医師(小児循環器内科部長・小児集中治療室主任医長)に話を聞いた。「小児循環器のカテーテル治療は、技術の進化により広がっています。心臓の穴を塞ぐ治療や肺動脈弁の治療も、条件次第でカテーテルで対応可能です。患者さんの症状に合わせて、手術かカテーテル治療か、また両方を組み合わせるのがいいのか。小児心臓外科医である岩田先生たちと綿密に検討し、ご家族に丁寧に説明して納得していただくよう心がけています」。
先天性心疾患の治療は乳幼児期に終わると思われがちだが、実は違う。必然的に、その後もずっとフォローしていかねばならない理由がある。「乳幼児期に手術で挿入した人工物は、成長とともにサイズが合わなくなったり、劣化していくので、いずれは修復手術をしなくてはなりません。また、成長過程で心臓のほかにも、肺や肝臓などにさまざまな病気を発症して、内科的治療が必要になることもあります。ですから、常にメンテナンスして、どこか悪いところが出てくれば速やかに対応していかないといけないのです」と岩田は説明する。
そのため同センターでは、全国に先駆けて〈成人先天性心疾患診療科〉を開設し、成人期を迎えた患者のフォローに力を注いでいる。患者とのつきあいは一生涯。岩田は赴任して15年目だが、最初の頃に診た患者はすでに15歳になり、ときどき通院して元気な姿を見せてくれるという。
このように一人の患者を手術や内科的治療を用いて、生涯にわたって支えていくため、同センターの小児循環器内科と小児心臓外科の関係は極めて近い。「内科と外科は同じフロアで、一つの診療科のように仕事しています。一般に内科から外科へ移ると、診療スタイルもスタッフもがらっと変わりますが、当センターでは転科しても内科と外科の医師が一緒に診ていくので、ご本人にもご家族にも安心して治療を受けていただけると思います」と桑原は言う。
周囲を見渡せば、同センターのように、複数の診療科が連携して、しかも新生児期から成人までを対象として、先天性心疾患を診ていく体制の整った施設は全国でも数少ない。無論、岐阜県では唯一無二の存在だ。「私たちは皆、先天性心疾患に立ち向かう類まれな施設であるという使命感をもっています。今後もチーム医療の質をさらに高めて、総合力を結集し、一人でも多くの患者さんの命を救い、守っていきます」と、桑原は締めくくった。
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