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がん検診とがん診療
みよし市民病院
がんは早期治療すれば、怖い病気ではない。
無症状のうちに発見できるか否かが鍵。
この日、みよし市民病院の消化器科・外来に、初老の男性患者が訪ねてきた。かなり痩せているが、顔色は良く、足取りもしっかりしていた。「今日は体調が良さそうですね」。患者を迎えた伊藤 治院長は、にこやかな笑顔で迎えた。実はこの男性は、数カ月前に同院のがん検診で胃の進行がん(※)と診断。紹介先の病院で胃の3分の2を摘出する手術を受け、現在は同院の外来で、再発予防のための化学療法を始めたところだった。手術はもちろん成功したが、術後は傷口の痛みだけでなく、著しい胃の機能低下に伴う食欲不振、食後の膨満感、胸焼け、下痢などの諸症状に悩まされてきたという。それに、これからは抗がん剤の副作用も加わり、辛い闘病生活はまだしばらく続きそうだ。
※胃がんのうち、胃の粘膜下層に留まっているものを早期がん、その下の筋層以上に進んでいるものを進行がんという。
男性の診療を終えた後、伊藤は悔しそうな表情でこう言った。「この方は、幸い、手術でがんを摘出できてとても良かったんです。ただ、欲を言えば、少し発見が遅かった。もっと早ければ...と悔やまれます」。伊藤がそう言うのは、もし早期発見できれば、内視鏡でがんを切除できるからだ。「胃や大腸といった消化管の壁は粘膜層、粘膜下層、筋層という3つの層からできています。このうち、粘膜層に留まる早期がんであれば、内視鏡で完全に取り去ることができます。当院では、内視鏡に精通した熟練の医師が、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術:詳しくはコラム参照)を積極的に行い、良好な治療成績をあげています。また、仮にもう少し症状が進んでも、筋層まで留まり、リンパ節転移も少ないがんなら、紹介先の病院で、体に負担の少ない腹腔鏡手術(お腹に小さな傷を数カ所つけ、内視鏡を挿入して行う手術)を受けていただくことができます」と伊藤は説明する。
では、どうしてこの男性は発見が遅れたのだろうか。「これは胃がんに限らないことですが、早期は全く症状が出ません。この段階で見つかれば完治を期待できますが、自覚症状が出てから治療するのは難しいことが多いのです」。
無症状の段階でがんを見つけるために欠かせないのが、がん検診だ。厚生労働省では、受診率50%以上を目標に、がん検診を推進している。しかしながら、みよし市民の受診率を見ると、決して高いとはいえない。たとえば、胃がんの受診率では、愛知県の17.2%に対し、みよし市は9.2%に留まる(平成30年9月集計。出典:愛知県・がん検診の事業評価における主要指標について)。
「みよし市のがんを減らすには、この受診率を高めなくてはなりません。当院が、行政と協力してがん検診に力を入れるのもそのためです」と、伊藤。たとえば、市民対象の胃がん検診では、胃部X線検査(40歳以上の全員が対象)か胃内視鏡検査(50歳以上の偶数年齢の人が対象)を選択できるが、どうしても口から胃カメラを入れるのは辛いイメージがあり、敬遠されがちだ。そこで、同院では負担の少ない経鼻内視鏡を導入。検査へのハードルを下げ、一人でも多くの人に検査を受けてもらえるよう努めている。このほか、肺がん、大腸がん、前立腺がん、乳がんについても、最新の検査設備をそろえ、充実した検診体制を完備。検診から生体検査(組織を採取して行う検査)、さらに精密検査までをすべて行える体制を整え、正確な診断と治療に繋げている。
また、がん検診の啓発は行政が中心になって行っているが、同院も側面支援している。その一環として、11月10日に開催される病院フェスティバルでは、内視鏡検査の体験などができる〈医療体験コーナー〉も設ける計画だ。「がん検診は、市民の皆さんの健康を守るために欠かせない取り組みです。これからも、がんを早期に見つけ、正しく診断し、適切な治療に繋ぐ地域医療拠点をめざしていきます。そして、みよし市民の健康に寄与する病院としての存在意義を発揮していきたいですね」。伊藤は力強い口調でそう締めくくった。
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