猛暑のつづくある夏の日、みよし市民病院の小児科に一本の電話がかかってきた。「3歳の男の子なんですが、頭に瘤(こぶ)のようなものができてから、食欲がなくなってしまって...」。母親からの電話に、最初は看護師が受け答えしていたが、小児科部長の吉田智也は直接状況を聞いた方がいいと考え、電話を代わった。話の内容から、頭にできた瘤の状態がどうしても気になる。母親は都合のつく数日後に受診したいと申し出たが、「できれば明日、来れますか」と提案。翌日、元気がなくなった子どもをひと通り診察し、CT検査の指示を出した。
本来なら、MRI検査が最も適しているが、小さな子どもの体の負担に配慮し、ほんの数分間で撮影できるCTによる緊急検査を選択したのだ。診療放射線技師から届いた頭部の断層写真を見て、吉田は予想していた通り、瘤の形状や大きさから、腫瘍の疑いがあると診断。すぐに小児腫瘍の治療に精通した専門病院に依頼し、翌日の受診を手配した。このケースを振り返り、「タイミングを逸することなく、適切な病院へご紹介できました。専門的な病院とクリニックの中間にある病院として、精密な画像診断を行い必要な治療に繋げるという、当院の役割をしっかり発揮できたと思います」と吉田は話す。
吉田は令和4年4月、同院に赴任したばかり。名古屋市立大学医学部を卒業後、名古屋市立大学病院、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院、聖霊病院などで豊富な臨床経験を積んできた。「新生児集中治療室(NICU)に入院する新生児から幼児、児童、中学生くらいまで、幅広い年齢のお子さんのさまざまな疾患を診てきました。その経験を活かし、お子さんの全身を診て、些細な病気も見逃すことなく拾い上げるよう努めています。クリニックの先生方とも連携しながら、地域の小児医療の入り口というだけでなく、必要な医療へ橋渡しするゲートオープナーの役割(※)を果たしたいと考えています」(吉田)
※ゲートオープナーの役割:患者の状態や価値観などを踏まえて、適切な医療を円滑に受けられるようサポートする役割。
地域の小児医療は大きく分けると、風邪や腹痛といったふだんの健康管理を担うクリニックと、24時間体制で小児救急と高度な小児医療を提供する専門的な病院で構成されている。みよし市民病院は、クリニックと専門的な病院のちょうど中間にある。クリニックでも大病院でもない、中間的な病院だからこそできるのはどんなことだろうか。
「たとえばCTやMRIといった画像検査は、クリニックではなかなか難しいですし、大きな病院だと予約待ちになります。当院くらいの規模ですと、診療放射線技師や看護師との連携も取れて小回りがきくので、緊急検査もスムーズに行えます。そのメリットを活かし、今後はクリニックからの画像診断の依頼も積極的に受けていきたいと思います」と吉田は話す。
画像診断に続いて、吉田が構想するのは、<高度医療機関に入院するほどではないけれど、自宅で看るのは不安>という症状の子どもを短期入院で預かることだ。「専門性の高い病院は重症なお子さんで埋まりますから、中等症や軽症のお子さんまでは対応できません。ただ、それほど重篤でなくても、本人や保護者にとってかなりつらい病気もあります。そういうケースの受け皿として、役立っていきたいと考えています。今のところ常勤医は私一人なので、体制上の制限はありますが、小学校高学年以上のお子さんの、たとえば肺炎などに関して、積極的に対応していきたいですね。それに、高度医療機関で急性期治療を終えた後のフォロー診療でもお役に立てると思います」(吉田)。
専門的な病院とクリニックの中間にある拠点病院だからこそ、発揮できる医療機能はいろいろある。「当院は新しいことにチャレンジできる、ほど良い規模と環境が整っています。小児のさまざまな病気に寄り添う中間的な病院というロールモデルを、ここみよし市で作っていきたいと思います」と吉田は意欲を燃やしている。
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