LINKED plus 病院を知ろう
みよし市民病院
FLS(骨折リエゾンサービス)の活動を
通じて、市民の健康寿命の延伸をめざす。
初夏を迎えたある日、みよし市民病院の小会議室に〈骨粗しょう症予防チーム〉のメンバーが集まっていた。メンバーは、整形外科医を筆頭に、看護師、理学療法士、管理栄養士、薬剤師を中心とする多彩な顔ぶれである。現在の活動状況を情報共有し、チームの運営目標や患者支援の方法などについて活発な議論が繰り広げられた。
骨粗しょう症予防チームは、FLS(骨折リエゾンサービス)の取り組みを目的に、令和4年9月に発足した。FLSとは何だろうか。メンバーで、〈日本骨粗鬆学会認定・骨粗鬆症マネージャー〉の資格を持つ看護師の山口慶子と坂田裕美子に話を聞いた。「FLSは、脆弱性骨折(わずかな外力で生じる骨折)をした高齢の患者さんを対象にした取り組みです。脆弱性骨折を起こす方はもともと骨粗しょう症を発症していることが多く、骨がもろくなっているので、退院してもまた次々と骨折を繰り返す傾向があります。そのように繰り返す骨折を防ぐために、最初の骨折の治療後に骨粗しょう症の評価や治療を開始して、管理栄養士による食事指導や、理学療法士による運動療法なども交えながら、骨を強くするための治療を継続していきます」(山口)。
ちなみに、リエゾンは連絡係という意味で、スタッフが診療のコーディネーター役となって患者を支えていくイメージだという。治療としては骨吸収を抑制する薬、骨の形成を促進する薬があり、それぞれに内服、注射などさまざまな方法がある。しかし、骨粗しょう症によりスカスカになってしまった骨を、これらの治療と食事・運動療法でもう一度強くすることはできるのだろうか。
「基本的に治療を行うと、骨密度は現状維持から5%程度上がるといわれています。治療効果が低いように見えますが、実はこの〈現状維持〉というのがとても重要です。成果が見えにくいため、自己判断で服薬をやめる方が多いのですが、やめるとたちまち症状が進行し、骨折の連鎖に陥ります。そうならないように、私たちが患者さん一人ひとりに寄り添い、サポートしていきたいと考えています」と、坂田は話す。
そもそも同院が骨粗しょう症予防に本腰を入れて取り組み始めた背景には、骨粗しょう症がもたらす深刻な問題がある。それは〈骨卒中〉による死亡リスクだ。脳卒中という言葉は聞きなじみがあるが、骨卒中とは何か。「高齢の方が骨粗しょう症から骨折を繰り返すと、しだいに要介護状態や寝たきりになり、健康寿命も短くなります。とくに大腿骨や背骨を骨折すると、死亡率がぐんと上がり、脳卒中と同じように命が脅かされることになります」と山口は説明する。
山口たちが、〈骨粗鬆症マネージャー〉の資格を取ったのも、骨卒中への危機感からだという。「6年前に、はじめて整形外科の外来を担当し、骨粗しょう症の患者さんがすごく多いことに驚きました。もっと専門的な知識があれば、骨卒中を防ぐお手伝いができるのではないかと、この資格を取りました」と、坂田は振り返る。
骨粗しょう症予防チームはまだ動き出したばかりだが、構想は大きく広がっている。「私たちは外来でのサポートになりますが、今後は脆弱性骨折で入院している患者さんに積極的にアプローチして、退院後の骨粗しょう症予防の取り組みにスムーズに繋げていきたいと思います。また、その情報をミーティングでも共有し、薬物療法、食事療法、運動療法を効果的に組み合わせていきたいですね」と、坂田。
一方、山口は、患者アンケートについて語る。「対象となる患者さんには、それぞれ〈連携手帳〉を作らせていただいています。その手帳を使って数カ月ごとにアンケートを取り、ご希望の投薬方法や通院頻度などを確認しながら、個々の患者さんにあった治療を実践していく計画です」。みよし市の高齢化率は国・県よりも低い値ながら、年々上昇を続けている。この地域の高齢者が人生の最後まで元気に健康で楽しく毎日が送れるように、同院の取り組みはいよいよ本格的に展開されようとしている。
COLUMN
BACK STAGE