夏の盛り、みよし市民病院の栄養課を訪ねると、テーブルに数種類のプリンが並べられ、検食会が行われていた。「これは舌触りがなめらかで食べやすそう」「こちらは味が濃いめで、好き嫌いがあるかもしれない」「1カップの量とカロリーはどうかな」。集まった3名の管理栄養士はそれぞれ意見を述べ合い、どのプリンが最も適しているか検討した。管理栄養士の吉川はこの検食会の目的について次のように説明する。「当院では、どうしても食べられなくなった患者の個別対応食として、プリンやゼリー、アイスクリーム、ヨーグルト、ジュースなどをお出ししています。何も食べられなかった方がおいしそうな笑顔を見せてくださることもあり、これをきっかけに徐々に食欲を取り戻すこともあるので、個別対応食はとても有効なんです。今回は購入していたプリンが廃番になったので、新しい商品について検討しました」。
栄養課では、病気や高齢で食事をとりづらくなった人に対するメニューの工夫に力を注いでいる。例えば、のみ込む機能や噛む機能が低下した人や歯がない人には、嚥下食(きざんだもの、軟らかくしたもの、ミキサーでつぶしたものなど)を用意。患者の状態に合わせた栄養のとり方を考え、誤嚥(食物などが誤って喉頭と気管に入ってしまう状態)を防ぎながら、必要な栄養がしっかり取れるように支援している。こうした患者の栄養管理については、病棟から依頼を受けたり、NSTチーム(詳しくはコラム参照)の活動の一環として関わることが多い。さらに、栄養課自身で新規入院患者の体重や血液検査のデータ、褥瘡(じょくそう:床ずれ)の有無などを洗い出し、ハイリスクと判断した患者の食事に介入することもあるという。「近年は、たんぱく質の不足した低栄養の高齢患者が増えているように思います。低栄養になると、身体のさまざまな機能が低下し、褥瘡のリスクも高まるため、早急の対策が必要なんです」と、管理栄養士の奥田は話す。栄養課のメンバーは患者の栄養状態改善のため積極的に活動している。
管理栄養士の主な役割は栄養指導や栄養管理、給食管理だが、近年、その役割は大きく拡大しつつある。食事が病気と深く関わることが明らかになるにつれ、管理栄養士は予防医療に欠かせない食事の専門家として活躍する存在になったのだ。今年、15年目を迎えるというベテラン管理栄養士の後藤は、その変遷について次のように振り返る。「当院に入職した当時、管理栄養士は病院の地下にこもっていた印象があります。メニューの要望を給食会社のスタッフに伝えて交渉したり、食べやすいような食器を工夫したり...。黒子に徹していたので、患者さんと直接触れ合う機会はあまりなかったように思います。それが今では、先生方も栄養指導の必要性を認めてくださり、病棟を訪ねて患者さんに直接、栄養指導する機会が増え、新たなやりがいを実感しています」。
栄養課のメンバーは入院患者だけでなく、外来患者にも積極的に関わり、糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病の改善をめざして、食生活の面からアプローチしている。また、管理栄養士自ら地域に出向いて、地域健康講座を開催。高齢者のフレイル(体重の減少や筋力の低下)を防ぐために、食事がいかに大切かなどを、市民にわかりやすく伝えている。では、今後の目標は何だろうか。「これからの超高齢社会を見据えると、私たちもいずれ訪問医療に関わらなくてはならないと考えています。当院は通院が困難な患者さんや、在宅で療養している栄養状態が悪化した患者さんを訪ね、栄養指導や栄養管理を継続していきたいです」と、吉川。その言葉に続けて、奥田も次のように話す。「訪問栄養指導は、事業管理者の成瀬達先生が率先して計画してくださっています。みんなの力を結集して、必ず実現していきたいと思います」。
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