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西尾市民病院
市民のための病院として、いつ何が起きても
市民を守れるように準備してきた。
新型コロナウイルス感染症対策において、西尾市民病院の対応は早かった。早期から院内感染対策委員会を開き、具体的な感染症対策を協議。もともと陰圧室(ウイルスや菌が外部に流出しない部屋)のあった病棟を、感染症対応のための病棟へ転換することを決定した。3月10日までに、病棟前の廊下に空気の流れを遮断するユニットを設置し、その先に、感染の疑いがある患者にも対応できる専用の病床を3床確保した。同院は感染症指定病院ではない。しかし、「万一、市民の方が陽性になり、入院治療が必要になっても、近隣の感染症指定病院が満床であれば行き場がなくなってしまいます。そうならないように、私たち市民病院がしっかり受け入れ準備をしようと考えました」と語るのは、院内感染対策委員会委員長の和田応樹副院長である。この病棟を用意したことにより、新型コロナの感染拡大期も慌てることなく救急患者に対応できたという。「発熱症状があり、感染症の疑いのある場合は、この病棟に一時的に入院していただき、検査の結果、陰性であれば、一般病棟に移っていただきました。院内感染を防ぐ意味でも有効に活用できました」(和田)。
病棟の準備に加え、3月23日から水際対策にも着手した。診察などで病院を訪れた人全員の体温を測定すると同時に、敷地内にテントを設け、発熱者のための外来を開設。37.5度以上の人は問診をして、疑いのある場合は陰圧室で感染の有無を調べる体制を整えたのだ。
こうした一連の対策を進めてきた経緯について、院内感染対策委員会の青木美由紀(感染管理認定看護師)は次のように話す。「最初に強い危機感を持ったのは、2月にクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の陽性者を、岡崎の施設で受け入れることを知った頃でした。その後、蒲郡で感染者が飲食店を訪れた事件が起きたり、近隣の病院で院内感染が発生したりして、ここにも新型コロナが迫ってくる恐怖を感じました。でも、そういうときだからこそ、当院は市民の皆さんが安心して医療を受けられる病院でなくてはいけません。そのために、院内でクラスター(感染者集団)を出すわけにはいかないと思いました」。
感染による病院閉鎖は絶対に避けなくてはならない。同院の職員たちが、一丸となって感染予防に取り組めたのは、どうしてだろうか。青木は次のように語る。「実は、当院では13年前に、多剤耐性菌による院内感染が発生し、患者さんに大変なご迷惑をかけたことがあります。その苦い経験があったからこそ、〈二度とあんなことは起こしてはならない〉という強い気持ちを職員が共有し、同じ方向を向いて取り組めたのだと思います」。同院ではそのできごとを契機に、院内の感染対策を徹底的に強化。手指消毒の徹底など職員の衛生意識の向上を図り、院内感染対策チームの活動に精力的に取り組んできた。さらに昨年、新型インフルエンザの対策マニュアルを見直したばかりで、感染症に対する基本的なガイドラインがしっかり構築されていたといえるだろう。
但し、課題も見えてきた。たとえば、防護具の圧倒的な不足である。現在も職員が手作りして急場をしのいでいる状況で、ハード面の整備は秋冬に向けての大きな課題だ。また、外来の充実に取り組む計画も持つ。「現在、一般の外来とは別に、発熱者のための外来を2カ所開設していますが、患者さんの急増に備え、もう1カ所増やす予定です。感染症のための病棟は現状のまま維持し、近隣の感染症病床が満床になったとき、受け入れられるよう準備します」と和田は話す。同院では、早くも第2波に照準を定め、感染対策の強化に動き出している。「幸い、これまで市内の感染者は非常に少なく、第1波は抑え込むことができました。でも、寒くなればインフルエンザと新型コロナウイルスの両方が流行することも考えられ、油断はできません。いつどんな状況になっても、市民の皆さんの健康と生活を守るのが、私たち市民病院の使命です。その高い志を持って、これからも準備を進めていきます」。和田は決意を込めて、そう語った。
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