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西尾市民病院
最新のデュアルエナジーCTを用いて
圧迫骨折の早期診断と治療を進める。
この日、西尾市民病院の整形外科を受診したのは、家族に車椅子を押されてやってきた70代の女性だった。話を聞くと、一昨日、家の階段を踏み外して、腰を強く打ってしまったという。「近くのクリニックでレントゲンを撮ってもらったんですが、骨折ではありませんでした。でも、痛みがさらにひどくなり、立ち上がることもままならなくなってしまいました」。女性の訴えを聞いた犬飼規夫は、「もしかして、レントゲンでは見えにくい圧迫骨折かもしれません。CT検査(X線を使って体の断面を撮影する検査)をしてみましょう」と話して、診療放射線技師に撮影を依頼した。
検査に用いたのは、令和2年12月、導入されたばかりの最新のAI搭載デュアルエナジーCT(全身用コンピュータ断層撮影装置)だ。これは、2種類のX線エネルギー(低い管電圧と高い管電圧のX線)で撮影を行い、通常のCT撮影では得られないさまざまな画像情報を得るもの。たとえば、骨の傷んでいるところは色で示されるので、小さな骨折もクリアに判別することができる。背中から腰部までを中心に撮影したところ、背中と腰の間ぐらいにある脊椎(背骨)に、はっきりと圧迫骨折が映し出されていた。これは、外部からの圧力で、脊椎の椎体(椎骨の円柱状の部分)が潰れてしまう骨折だ。「骨折を疑う場合、まずレントゲン撮影をします。そこでわからないと、CT検査を行いますが、それでも見つけにくい骨折があります。このような圧迫骨折や骨のヒビ、骨挫傷などで、これらを総称して不顕性骨折といいます」と、犬飼は説明する。
不顕性骨折の場合、続いてMRI検査(磁気を用いて体の断面画像を得る検査)を行うわけだが、撮影に30〜60分程度かかることや、狭い空間で大きな音が聞こえるなど、患者さんの体にかかる負担は大きい。「デュアルエナジーCTなら、短時間で簡単に撮影できますし、一般的なCTよりも被ばく量もかなり抑えることができます。この装置を導入し、骨折の診断が非常に容易になりました」と犬飼。診断のついた女性は腰部にコルセットを装着し、安堵した表情で外来を後にした。
犬飼が腰椎圧迫骨折と診断したケースは明らかに外力が原因だが、本人が知らないうちに生じる圧迫骨折も多いという。「別名〈いつの間にか骨折〉とも言います。知らないうちに骨が潰れて、痛みもないので、放っておくともっと潰れていきます。高齢の女性に多く見られ、骨粗しょう症が原因とも考えられています」と犬飼は話し、次のように続けた。「骨粗しょう症になると、骨がもろくなり、背骨が体の重みを支えきれなくなり、背骨がつぶれやすくなるんです。そして、圧迫骨折が進むと、だんだん背中や腰が曲がっていきます」。
背中や腰が曲がると、痛みを感じるだけでなく、日常生活の質も著しく低下してしまう。そうなる前に、なんとか治療する方法はないだろうか。「健康診断で測った身長が去年よりも2㎝以上低くなった、若い頃に比べて背が縮んできた、という場合、圧迫骨折を疑った方がいいかもしれません。早めにデュアルエナジーCT検査などを行い、適切に治療を始めれば、骨粗しょう症の進行を遅らせ、将来の背中曲がり、腰曲がりも大幅に予防できます」と犬飼は話す。
見つけにくい骨折の診断に、威力を発揮するデュアルエナジーCT。犬飼はその高度な検査機能を活かして、地域医療全般に貢献していきたいと話す。「デュアルエナジーCTの画像診断は、骨折のほかにも、いろいろな疾患の発見に役立ちます。地域のかかりつけの先生からのご依頼に応え、放射線専門医が読影して所見をお返しすることもできます。この最新医療機能を当院だけで使うのではなく、地域の先生方に気軽にご利用いただくことで、地域医療の向上に役立っていきたいと思います」。
骨折をはじめ、さまざまな疾患を早期発見することで、地域で暮らす高齢者の健康長寿を支えていく。そのために、同院は検査・診断の領域で一層大きな役割を担っていこうとしている。
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