LINKED plus シアワセをつなぐ仕事
西尾市民病院
医療と生活のさまざまな課題に対応し
患者と家族のサポートに全力を注ぐ。
ある日、西尾市民病院の患者支援室に、検査で大腸がんが見つかった患者の相談が舞い込んできた。患者は80代の男性で、妻と二人暮らし。医師は手術とストーマ(人工肛門)の造設を勧め、妻もそれを強く望んでいた。しかし男性は「人工肛門になるくらいなら、手術は受けない」と頑なに拒んでいた。「私が手伝うから大丈夫。あなたに生きていてほしい」と、妻は必死に説得したものの、実は妻自身、人工肛門をうまくイメージできずにいた。
外来から相談を受けた患者支援室の室長、畑中英子は早速夫婦に面談し、手術の可能性を模索することにした。鍵を握るのは、人工肛門への抵抗感の払拭だ。まずは、皮膚・排泄ケア認定看護師に応援を依頼し、ストーマの装具やケアの仕方などを丁寧に説明した。今は装具が進化していて支障なく過ごせること、人工肛門になっても、がんを克服して元気に暮らせることなどを説明していくうちに、男性の抵抗感は少しずつ薄れ、妻も装具のケアに対する自信を深めていくようだった。何度目かの面談の後、男性は吹っ切れた表情で「わかりました。手術を受けます」と話した。その言葉には、〈生きよう〉という前向きな気持ちがあふれていた。それからしばらくして、大腸がんの手術は滞りなく終わり、夫婦は今、元気な姿で通院し、ストーマ外来のフォローを受けているという。
この事例を振り返り、畑中はこう話す。「患者さんも心の底ではがんを克服したいと願っていたと思うんです。その思いを実現できることを、認定看護師をはじめ、スタッフみんなで示すことができました。何よりもお二人に喜んでいただけて、患者支援室として大きな達成感を感じました」。
畑中が率いる患者支援室には、看護師と社会福祉士が常駐。入院生活や退院後の療養生活までをサポートする〈入退院支援〉、療養中の不安や経済的な問題解決を支援する〈医療福祉相談〉、病院の利用者を対象に、医療や療養に関する幅広い相談に応える〈患者支援〉の3つの役割を担っている。それらの業務に共通するのは、常に患者の希望や意思を尊重し、粘り強くサポートしていく姿勢である。
患者支援室が現在の体制になったのは、令和2年のこと。それまでも患者の退院調整や社会福祉相談は行ってきたが、それらの機能を一段と強化し、治療・療養生活のさまざまな課題に多職種で対応できるキーステーションとして動き出したのだ。その狙いについて畑中は次のように語る。「昨今は高齢患者さんが増え、独居や老老介護など社会的支援を必要とするケースが増えています。また、医療依存度の高い状態で退院し、自宅療養していただくことも多くあります。そうした難しいケースに今まで以上にきめ細かく応えられるように、患者支援の仕組みを充実させました。また、新たに〈患者相談窓口〉を開設し、誰でも気軽に相談できる環境を整え、当院を利用するすべての患者さんをサポートする体制に進化させました」。
患者支援室ではスタッフが院内外の多職種と連携し、さまざまな入院支援や退院支援、療養支援に走り回っている。患者支援の案件は年々、増えているという。では、今はどんな課題を感じているのだろうか。「幸い、西尾市は自宅でも施設でも充実した介護サービスが受けられる体制が整っています。老人介護施設も多いので、退院後の行き先として選ぶこともできます。ただ、本当は家に帰りたい患者さんがご家族に遠慮して施設を選択することもあります。本来は、患者さんの希望通り自宅に戻れて、地域で支えていく。つまり、生活の場である地域が、さまざまな障害や病気を持つ人を受け入れる許容力を持てれば理想的です。ゆくゆくは、私たちが在宅医療・介護チームの人たちと連携して取り組むことで、そんな理想の地域づくりをめざしていきたいと考えています」。
超高齢時代を迎え、患者支援は病院と生活を繋ぐ重要なキーワードになっている。「患者さんの満足を第一に、これからも全力を尽くしていきます」と、畑中は改めて決意を語った。
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