LINKED plus シアワセをつなぐ仕事
西尾市民病院
認知症看護のスペシャリストが中心となり、
認知症患者の入院生活を支える。
記憶力や判断力などの認知機能が徐々に低下していく「認知症」。高齢社会の進展に伴い、認知症を持ちながら何らかの急性疾患で入院する患者が増加している。認知症患者にとって、入院は突然の環境変化であり、混乱して入院という状況が理解できない人も少なくない。そのため、興奮して大声を出したり、点滴の管を外したり、徘徊などの異常行動を見せたり、なかには暴力行為を起こす人もいる。こうした実にさまざまな難しいケースに対応し、すべての認知症患者が穏やかに入院できるような看護を模索しているのが、西尾市民病院の認知症看護認定看護師の余語華代である。
「認知症患者さんは皆、突然、知らない人に囲まれて強い不安感を感じています。ですから患者さんに寄り添う看護師の丁寧な声かけが非常に大切です。たとえば、痰の吸引や口腔ケアなどを行う際は、何をするか一つひとつ伝えながらお世話をすること、ケアの後に『さっぱりしたね』などポジティブな声がけをすると安心していただけます」と話す。
余語は、認知症患者を支える病棟看護師の相談に応え、実際にケアをして見せながら、前記のようなアドバイスを提供している。「病棟看護師から、『体に触れるだけで怒っていた患者さんが、ありがとうと言ってくれるようになりました』などと報告を受けると、とてもうれしいですね。院内の看護師が皆、こうした小さな成功体験を一つひとつ積み重ねることで、認知症看護のノウハウを蓄積し、病院全体の看護レベルを引き上げていきたいと思います」と話す。
余語が認知症看護認定看護師の資格を取ったのは平成30年のこと。以来、認知症サポートチーム(DST)の一員として、精神科の医師らとともに週に1回、各病棟をまわり、認知症患者の対応に苦慮しているケースを分析。多職種が参加するカンファレンスで、患者それぞれに合った対策を検討している。その他、週に1回、「認知症相談看護外来」を開き、自宅で暮らしている認知症患者と家族の相談に応えるなど、認知症看護のスペシャリストとしての専門知識と技術を遺憾なく発揮している。
認知症看護に力を注いできた余語だが、ここ数年のコロナ禍では厳しい状況が続いてきた。「たとえば、認知症の方が新型コロナに罹患して入院された場合、ご本人はなかなか隔離される状況が理解できず、部屋を出てしまうことも多く、対応が難しかったですね」(余語)。また、家族の面会制限も大きな障壁になったという。
「コロナ以前は、すぐ動いて点滴の管を外してしまうような患者さんの場合、ご家族に協力をお願いしてつき添ってもらうことで、落ち着きを取り戻していただけました。でも、そういったご家族の協力が得られないので、どうすれば興奮を抑えられるか、どんな声かけが効果的か、いろいろと試行錯誤を重ねてきました。不安感の強い患者さんにとって、やっぱりご家族の力はとても大きいんです」と話す。
ようやくコロナ禍も落ち着いてきた今、余語はこれからどんな認知症看護をめざそうとしているのだろう。「やはり認知症患者さんの身体抑制をできるだけ少なくすることを常に目標に掲げています。もちろん、患者さんの安全を守り、必要な医療を提供するために、薬や道具で抑制せざるを得ない場面もあります。ただ、患者さんの行動の原因を知り、その原因を取り除くように環境を整えることで、穏やかな気持ちを取り戻していただけます。病棟の看護師と一緒にいろいろな方法を試しながら、できることを奪わないで過ごしていただけるよう努力していきたいですね」。
さらに、余語はそうした認知症看護のノウハウを、院外へと広げていきたいと考えている。「認知症という病気を理解できれば、患者さんの思いや言動を受け入れやすくなります。ご家族をはじめ、訪問看護師やデイケア(通所リハビリテーション)の介護職員などの皆さんが、認知症の人の思いや世界を理解できるよう、これからも情報発信に力を入れていきたいと思います」(余語)。
COLUMN
BACK STAGE