西尾市民病院の放射線科では、毎朝スタッフが集まり、10〜20分ほどのミーティングが行われている。参加するのは、放射線科医師の江部和勇をはじめ、診療放射線技師や看護師たちである。
「Aさんは、昨日、皮膚に発疹ができていたので、放射線を当てる前に経過を確認してください」「今日からBさんの治療が始まります。最初は不安だと思うので、丁寧に案内しましょう」「Cさんは今日から照射のプランを少し変更しますので、注意してください」。江部医師からいくつかの注意事項が伝えられ、診療放射線技師、看護師からもそれぞれ必要な連絡事項が伝達された。
同院では令和5年4月、高精度な放射線治療装置〈トモセラピー〉が導入されるとともに、放射線治療専門医として江部が赴任した。このミーティングは、その新体制とともにスタートした取り組みである。
「新しいことを始めるときは、スタッフ間のコミュニケーションがとても大切になります。当院ではすでに、診療放射線技師や看護師の皆さんのチームがあって、そこに新参者の私が加わった形ですが、毎朝のミーティングを通してお互いの距離が縮まってきたように感じています。ミーティングでは、私の足りない部分を指摘してもらうこともありますし、反対に、『放射線治療について教えてください』と言ってもらうこともあります。スタッフの意欲も高く、いい雰囲気で仕事しています」と江部は説明する。
放射線治療専門放射線技師・放射線治療品質管理士の資格を持つ山本公大技師も、その意見に同意する。「以前は放射線治療の先生に、週1回来ていただく体制で、放射線治療チームのできることも限界があり、難しい症例は近隣の病院に紹介していました。でも今は、江部先生が常勤になり、高精度な装置も導入され、看護師も放射線科専属体制になり、スタッフみんなモチベーションが上がっています。治療を受ける患者さんの症状は多様で、放射線治療の方法もいろいろありますが、それぞれの治療計画をしっかり確認しながら、患者さんに安心して治療を受けていただけるよう、日々の仕事に取り組んでいます」。
今回、導入された高精度な放射線治療装置〈トモセラピー〉はどんな装置だろうか。「当院で従来使っていた放射線治療装置はリニアックですが、トモセラピーは、そのリニアックとCT(コンピュータ断層撮影装置)を一体化させた装置です。CT撮影と同じように、X線が患者さんの周りを360度回転し、がんの病巣を立体的に描出し、それに合わせてピンポイントで放射線を集中照射することができる仕組みです。さらに照射法は、強度変調放射線治療(IMRT)といって、がんの形や部位、大きさに合わせて照射量や強度を変化させることができるので、周囲の正常組織への影響を限りなく減らすことができます」と江部は説明する。
同院ではこの装置をフルに活用し、乳がん、肺がんなどの治療に取り組んでいる。たとえば、手術前にがん組織をある程度小さくする術前放射線治療、手術後に残った病変に対して行う術後放射線治療、手術の難しいがんの根治的な治療、さらに骨や脳に転移したがんの放射線治療などだ。がん治療では、手術だけでなく、放射線治療や抗がん剤治療などを組み合わせる集学的治療が標準である。高精度な装置と放射線治療チームが確立されたことにより、がんの集学的治療体制が整ったと言うことができるだろう。
最後に今後の抱負について、江部に聞いた。
「がんの放射線治療は、内科や外科の治療をサポートするような役回りを担っていると考えています。放射線を使うことにより、手術療法や薬物療法の治療成績を少しでも上げるよう貢献していきたいですね。また、将来的には、内科や外科の先生たちとがん患者さんの治療方針について総合的なカンファレンスを開くような体制を作れたら理想的だと考えています。診療科を超えた連携を深めることで、ここ西尾で高度ながん診療を完結できる体制を確立していきたいと思います」。
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