LINKED plus シアワセをつなぐ仕事
西尾市民病院
退院間もない時期を集中的にケアし、
病院から在宅へのスムーズな移行をサポート
「こんにちは。おかげんはいかがですか」。この日、西尾市民病院・訪問看護ステーションの内藤香利(看護師)は、いつものように在宅療養中の男性患者のもとを訪れていた。この患者は肺がんを患い入院していたが、1カ月前に退院。平日は毎日、内藤が訪問し、健康状態をチェックして、在宅酸素の管理、痛みのコントロール、おむつの交換や清潔の援助、薬の管理などを行っている。本人や家族に「何か困ったことはないですか」と尋ね、さまざまな相談に応えるのも内藤の大きな役割だ。
「実は来月、遠方に行く予定があって、どうしようかと...」という家族からの相談。患者を一人残しての遠出に躊躇しているようだった。内藤はすぐに、レスパイト入院(家族が介護から解放され、休息をとるための短期入院)を提案した。「市民病院というバックアップがあるから、レスパイト入院もご提案できますし、病状が悪化したときの入院もいつでもスムーズに受け入れることができます。ご家族が無理をせず介護を続けられるように全力でお手伝いしています」と内藤は話す。
この患者と内藤が最初に会ったのは、入院している病棟だった。肺がんが進行していて、残された時間はそれほど多くない。本人は「家に帰りたい」と考えていたが、家族は自宅で世話をするのは到底無理だろうと諦めていた。そこで、「退院しても、私たち訪問看護師が毎日通って医療的な処置をしたり、介護の方法をアドバイスしたりするなど、いろいろお手伝いできますよ」と伝えたところ、家族は覚悟を決めて在宅療養に踏み切ったのだ。
「入院中からご本人やご家族とコミュニケーションをとれるのが私たちの強みですね。また、病棟の看護師からも情報が得られるので、入院中と同じような看護を継続して提供できます」と内藤。さらに、症状に応じてそれぞれの専門分野の認定看護師のバックアップが得られるのも、市民病院ならではの体制といえるだろう。褥瘡(じょくそう:床ずれ)や認知症、嚥下(飲み込む機能)障害など、専門的なケアが必要な場合、院内の認定看護師が同行訪問し、適切なケアをタイミングよく提供している。
西尾市内にはいくつかの訪問看護ステーションが運営されているが、同院があえて付属の訪問看護ステーションを開設したのはどうしてだろうか。「それは、患者さんの在宅移行期を徹底して支援するためです」と内藤は話し、次のように続けた。「退院が決まっても最初は病状が不安定で、多くの医療処置を必要とします。また、一人暮らしなどで療養環境が整っていないこともあります。そうした患者さんのケアをすべて地域の訪問看護ステーションにお願いするのは、リソース的になかなか難しいのが現状です。そのため、以前は入院期間が長引いたり、在宅療養を諦めたりしてしまうケースもありました。そんな状況を改善するために、退院後すぐの期間、当院の看護師が毎日訪問して手厚くケアする体制をつくりました」。
市民病院の訪問看護であれば、病院のバックアップ機能を活用することで、多くの医療処置が必要な患者もしっかり在宅でケアできる。「今はかなり困難なケースであっても、スムーズに退院していただけるので、ご本人にもご家族にもとても喜んでいただいています」と、内藤はほほ笑む。訪問看護サービスの期間は原則として3カ月程度。病状が落ち着き、医療処置の回数が減り、家族も介護に慣れてきたら、地域の訪問看護ステーションへバトンタッチする体制を整えている。
今後の課題はどんなことだろうか。「今はまだ私たちが使うカルテと、院内の電子カルテが連携できていません。ゆくゆくは連携が進み、リアルタイムに院内の医師や看護師と情報共有できるようになればいいなと考えています。また、患者さんによっては、3カ月後も継続した訪問を望まれる場合もあります。そういうケースにも柔軟に対応していけたら理想的ですね」と内藤。走り始めたばかりの訪問看護ステーションで、目の前の課題を一つ一つクリアしながら、在宅療養を幅広く支えていこうとしている。
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