西尾市民病院では2025年3月、国産の手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」を導入する。hinotoriは、手術器具や内視鏡を取り付けた4本のアームを備え、術者の微細な動きを実現する装置。医師は患者のベッドサイドから離れたコックピットで、内視鏡の画像を見ながらアームを操作して手術を行う。「複数の機種の候補から、性能や操作性、国産の良さなどを総合的に判断して、hinotoriを選びました」と語るのは、院長の禰宜田政隆である。
近年、多くの病院で導入が進められている手術支援ロボット。その主なメリットは大きく分けて二つある。一つは、患者への負担が少ない低侵襲性。体に数カ所の小さな穴を開けて手術を行うため、傷口が小さく、術後の痛みも少なく、早期の回復・退院が見込める。もう一つは、医師がスピーディに技術を習得できるところだ。専門的なトレーニングを積むことで、若手医師でもベテランの医師と同等のレベルで、高度な手術を安全に行うことができる。同院においても、大学病院のトレーニング施設に医師を派遣し、手技の練習を開始。同時に手術室スタッフの訓練も始めている。
「十分なトレーニングを終えた後、学会認定の手術指導医の下で症例を重ねて施設基準を獲得し、2025年の秋頃までには保険診療でロボット支援手術を行える体制を整える計画です」と、禰宜田は話す。診療の領域として、初めに泌尿器科に照準を定め、前立腺がん、腎がん、膀胱がんに対するロボット支援手術の実績を蓄積。続いて、外科領域において大腸がんに対する結腸切除術に対するロボット支援手術の実績を積んでいく計画だ。
「当院が手術支援ロボットを導入することによって、遠方の病院まで足を運ばなくても、ここ西尾市で泌尿器、大腸の最先端医療、体に負担の少ない治療を受けられるようになります。市民の皆さんにとって大きな恩恵になると思いますし、安全第一で実績を重ねていきたいと思います」(禰宜田)。
同院ではここ数年、増える高齢患者を支えるために、退院後の生活復帰を支援する地域包括ケア病棟や訪問看護ステーションの運営に力を注いできた。在宅医療支援に注力する同院が、急性期医療の最先端である手術支援ロボットの活用に乗り出したのはどうしてだろうか。
「やはり近隣の基幹病院に頼るだけでなく、当院においても高度な急性期医療を提供できる体制をしっかり確保し、地域医療に貢献したいという思いがあります。たとえば、三次救急など高度医療を担う基幹病院では手術の順番待ちに時間がかかる場合でも、当院であればそれほどお待たせすることはないでしょう。患者さんにとって、地元の病院で高度な医療が受けられるメリットは計り知れないと思います」と、禰宜田は話し、次のように続けた。「もう一つの狙いは、若手医師の獲得です。これまで何度もお話ししてきたように、当院は長年、慢性的な医師不足に苦しんでいます。手術支援ロボットを導入することで、高度な急性期から在宅医療支援までトータルに学べる魅力をアピールし、最新医療のスキル習得を目指す若手医師の確保につなげていく計画です」。
今後も同院では、急性期医療の充実を目指し、地域に必要な医療設備を順次、整えていく計画がある。その一つが、レーザー治療。腎盂・尿管がんの治療で、腎臓を温存できるレーザー内視鏡治療が注目されているが、同院では近々、それに用いる最新のレーザー装置を導入する。さらに2025年度には検査機器を新しい機種に更新する計画も控えている。
「当地域に必要な医療設備は何かということをしっかり検討して、賢い選択をしていきたいですね。医師の確保に努めつつ、高度な治療を必要とする急な病気にも、手厚いケアを必要とする在宅療養にも、その両面に対応できる市民病院として、市民の皆さんを支えていきたいと思います」。禰宜田は力強い口調でそう締めくくった。
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