LINKED plus 病院を知ろう
岡崎市民病院
市民病院だからこそ、地域の5年後10年後を
しっかりと見据え、柔軟に対応する。
平成31年4月、愛知県がんセンター愛知病院が、岡崎市に経営移管され、岡崎市民病院との間で、医療機能再編が進められた。統合、そして再編は、この地域に何をもたらすのだろうか。
「実現させたのは、〈がん医療の集約化〉です」と、院長の早川文雄医師は語る。「がん医療におけるキュア(根本的治療)とケア(生活に寄り添う全人的な医療・看護)、すなわち、短期集中的な高度急性期・急性期治療と、それ以降の治療と療養生活の医学的支援とに機能を分け、前者は岡崎市民病院が、後者を愛知病院が担います。これにより、当院は広範囲で総合的・専門的ながん治療を提供し、愛知病院は地域に帰るための支援を行う。つまり、がんのあらゆる領域・ステージに対応できる診療体制と、発症から入院治療、通院治療を含む在宅復帰まで、継続的に提供できる体制を作り上げました」。
異なる病院の統合では、医療スタッフの関係性が心配される。例えば医師の場合、問題はなかったのか。「2病院とも、ほとんどの診療科の派遣医局が名古屋大学です。そのため、考え方やスタンスに若干の違いはあっても、ベースになる科学的根拠が共通で相互乗り入れができ、診療部長たちは、それぞれの良いところを取り入れようとしてくれています」。
看護はどうか。これまで同院では、非常に短い時間で多くの患者へのケアが必要であり、一方、愛知病院では比較的ゆったりと、濃密なケアが求められていた。「確かに文化や価値観の違いはありましたが、看護師たちは、看護の本質は同じであるとし、双方の利点を活かした、新たな看護の構築に力を注いでくれています」。
なるほど、単に形だけ二つが一つになったのではないようだ。「今回の統合は、1+1が2ではなく、3にも4にもなる。そうした可能性を示すことができたと思います。この地域では、がん医療の高次な機能があったにもかかわらず、利用する不便さで域外流出の患者さんがいたのですが、その流れをも止めることができるのではないかと思います」。
「がん医療を一つに纏めるのは、〈今〉の地域に必要なことでした。ただ、それだけではだめです」と早川は言う。「この地域は、今後、高齢化が急ピッチで進みます。人口動態、疾病構造が大きく変わる。当然、〈これから〉地域に必要とされるものも、どんどん変わる。その対応が必要です」。
具体的には、「超高齢社会では、高度急性期・急性期治療後の受け皿と、在宅療養患者さんの急性増悪対応が必要です。愛知病院もそこを担いますが、それだけでは足りません」と言い、こう続ける。「当院は、高齢者の在宅療養・生活支援は不得意です。でもそれを担ってくださる病院やスタッフの支援は可能です。また、郊外部においては不採算な面もあり、民間病院では難しいかもしれません。そこは当院が何とかしなければと思います」。
岡崎市民病院が、在宅まで担うのだろうか。「もちろん、高度な急性期医療は、守り続けます。また、他の医療機関が充分にやってくださるところはお任せします」。
ではどうやるのか。「今回の統合で、当院は高度な医療に特化でき、効率的な経営を図ることができるはずです。また、令和2年4月開設の藤田医科大学岡崎医療センターは、二次救急を担ってくれて、それを契機に、負担の重さから救急に二の足を踏んでいた病院が、少しでもまたやろうと考えてくださっています。となると、救急対応に追われ続けていた当院に、少し余裕が生まれる。その結果、余力を、今後必要となる領域に投入できると考えます」。
早川は語る。「当院は市民のための公立病院です。住民の安心・安全を守ることが第一義。高度急性期しかやらないとか、病床数も今の規模でといった発想ではなく、地域が必要とするものを、実現し続ける。それが当院の使命だと考えています」。微笑みを見せて言葉を締め括った。
COLUMN
BACK STAGE