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LINKED plus 病院を知ろう

職員を守り、患者を守り
地域医療を守り抜く。

岡崎市民病院

コロナ禍でも止めることができない医療。
感染対策に奮闘した2カ月余り。

未知のウイルスの感染を
どうやって防ぐか。

「これは、かなり厄介なウイルスだと思います」。3月初旬、岡崎市民病院の感染対策委員会で、新型コロナウイルスについて語る医師がいた。同院の感染対策チームの陣頭指揮をとる、辻 健史医師(感染対策室室長)だ。辻は中国武漢市で原因不明の肺炎が発生した直後から、情報収集に努めてきた。最初はわからないことが多く、試行錯誤していたが、3月に入り、ようやく全体像が見えてきた。情報を整理すると、新型コロナウイルスにはいくつかの特徴があった。一つは、感染者は軽症から重症まで多岐にわたること。二つ目は、子どもは比較的軽症だが、高齢者ほど重症化しやすいこと。三つ目は、本格的に流行すれば、岡崎地域も医療崩壊のリスクがあること。そして、もしも院内感染が発生すれば、一気に医療崩壊に突き進むことも予想された。これらの情報を踏まえ、辻は具体的な感染対策について幹部職員と意見交換した。

当時、愛知県では日々、新型コロナウイルスの感染者が増え、病床確保に躍起になっていた。同院は感染症指定病院ではなかったが、救命救急センターで受け入れる重篤な救急患者のなかには、発熱を伴った患者がいることも想定される。万一の場合に備え、感染の疑いのある患者を隔離できる病棟を作った。病棟には、ウイルスが外部に流出しない陰圧病室を設け、患者や職員の動線を完全に分離できる体制を整えていた。この間、最も苦慮したのは、救急搬送された患者のなかに「感染者がいるかもしれない」という不安だったという。そのため、緊急手術を行う患者に対しては、短時間でウイルス感染を判定できる「LAMP(ランプ)法」という検査を実施。陽性であれば、手術室や職員の感染対策を充分に行ってから必要な治療を提供する体制とした。さらに、職員を感染から守るために、感染管理認定看護師が中心となり、職員に手指洗い、防護具の取り扱いなどを徹底して指導した。こうした地道な努力が実を結び、愛知県で緊急事態宣言が解除された5月14日まで、同院は院内感染を起こすことなく、職員を、患者を、そして地域医療を守り切ることができたのである。

根底にあるのは、
地域の基幹病院としての使命感。

今回、同院が、感染の疑いのある救急患者も断ることなく受け入れながら、院内感染を防ぐことができたのはどうしてだろうか。「第一に、使命感ですね。当院は、救命救急センターや周産期センターなどを備えた地域の基幹病院です。当院で大規模な院内感染が発生すれば、たちまち外来や入院治療は縮小され、救急患者の受け入れも制限せざるを得なくなる、という緊張感がありました」と辻は言い、さらに続けた。「もう一つは、職員全員の協力です。個人防護具が圧倒的に足りないなかで、いかに物品を節約しながら安全に対応できるか、みんなで知恵を出したから乗り越えることができたと思います」。

今回は新型コロナウイルスを抑えることができたが、これで事態が収束したわけではない。秋冬には第2波、第3波の到来、インフルエンザの流行も予想される。それに向けて、辻は一段と気持ちを引き締める。「とくに懸念されるのは、地域の高齢者施設でクラスターが発生した場合です。重症化リスクの高い高齢患者さんを一度にたくさん受け入れないといけなくなるかもしれません。医師会の先生方とも協力しながら、入院の必要な患者さんをトリアージする体制を今から用意していく計画です」。

最後に、感染対策において、辻が最も大事にしているものは何か聞いた。「当院が大切にしているのは、予測→計画→実践→評価→改善という、いわばPDCAサイクルを回すことです。最初に、この先、感染症はこんなふうに広がるのではないかと予測して、保健所などと連携して対策を立てます。そして、時間の経過とともに、状況を見て、最初の対策を修正し、改善する。そしてまた、少し先を予測していく。その繰り返しを地道に行うことで感染対策の質を確実に上げてきました。これからも基本を大切に、職員や患者さんを感染症から守り、地域医療を支えていきます」。

  • 今回の感染対策で最も注力したのは「メンタル面も含めた職員の健康管理だった」と辻は振り返る。同院ではメンタルヘルスの相談窓口も設け、職員の健康維持をサポートした。その根底にあるのは、「医療従事者自身を守ることが病院を守り、患者を守ることになる」という信念である。
  • 同院では、感染拡大の第2波を見据え、職員教育の充実に取り組む。手指衛生や防護具の着用などを徹底し、感染予防のスキルアップを図っている。

感染症を正しく恐れながら、
必要な医療を受ける大切さ。

  • 新型コロナウイルス感染症の広がりに伴い、病院での受診を控える動きが広がっている。岡崎市民病院においても、それは例外ではなく、外来診療などの患者数が減っているという。
  • しかし考えてみれば、病気は感染症だけではない。受診を控えることで、重大な疾患を見逃したり、慢性疾患が悪化することもある。感染症予防をしっかりした上で、「気になる症状があれば、我慢せずに受診してほしい」と、辻は呼びかけている。

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