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岡崎市民病院
さまざまな診療科、専門職の力を結集し、
飲み込む機能の衰えた患者をサポートする。
食べることは人生の楽しみである。だが、加齢などにより嚥下(飲み込む)機能が衰えると、食べ物にむせたり、誤嚥(唾液や食べ物が気管に入ること)するようになり、やがて、高齢者の命に関わる病気である〈誤嚥性肺炎〉を繰り返すようになる。そんな状態から脱するために、昨年、慢性的な誤嚥に苦しんでいた90代の男性患者が、ある決断をした。それは「話すことができなくなってもいいから、手術して食べる機能を取り戻す」ことだった。この誤嚥防止手術を執刀した、都築秀典(耳鼻咽喉科統括部長)に話を聞いた。「これは簡単に言うと、喉にメスを入れ、気道と食道を分離する手術です。誤嚥を完全に封じ込める反面、発声の機能を失ってしまいます。この患者さんはそれでもいいと、手術を選択されました。今では一日3回、食事を楽しみ、元気に暮らしていらっしゃいます」。このように耳鼻咽喉科では喉の機能を診て、病変はないか、飲み込めない原因が隠れていないかを診断し、患者の希望を最優先にして適切な治療に繋いでいる。
耳鼻咽喉科が〈喉〉の専門家として、嚥下障害に関わるのに対し、歯科口腔外科は〈咀嚼(食べ物を噛む)〉機能の専門家として関わっている。齊藤輝海(歯科口腔外科統括部長)は次のように話す。「嚥下機能の衰えた患者さんに対し、まずは、内視鏡を用いて飲み込む機能を調べる嚥下内視鏡(VE)検査などを行います。その上で、咀嚼機能に問題がある場合は、私たちが入れ歯など口腔内の治療を担当します。さらに、舌や顎の筋肉が衰えていないかチェックして、どんなリハビリテーションに取り組むべきかチームで検討しています」。さらに同院では、腎臓内科、外科、脳神経内科、皮膚科などの専門医たちも摂食嚥下障害の治療に携わっている。これほど多くの診療科が関わるのは珍しいのではないだろうか。「摂食嚥下障害は単独で引き起こされるのではなく、器官の機能低下や何らかの病気によって起こるため、診療科を横断したアプローチが必要です。患者さんを中心に据えて、必要な医療をすべて結集できるのは当院の強みだと思います」と齊藤は話す。
齊藤はまた、院内に組織された多職種による〈摂食嚥下栄養サポートチーム〉のリーダーも務めている。「嚥下障害に対しては、医師だけでなく多職種の関わりが非常に重要です。摂食嚥下栄養サポートチームでは、嚥下リハビリテーション、口腔ケア、栄養サポートという3つの側面から、患者さんの食べる機能を守るために努力しています」(齊藤)。
そのなかで嚥下リハビリテーションを担当するのは、言語聴覚士の長尾恭史と田積匡平である。「私たちは主に、飲み込む機能の回復を促す訓練を担当するとともに、衰えた嚥下機能を補う食事の方法を提案しています。管理栄養士と一緒に食事の形態を考え、どんな姿勢や食べ方であれば、安全に食べていただけるか検討しています」と、長尾。その言葉にも表れているように、この取り組みでは〈食べること〉を何よりも重視している。「やはり誤嚥を繰り返す方は筋力が衰えているので、しっかり食べて栄養をとることが基本です。その点、当院では栄養サポートチームが一緒に活動しているのでとても心強いですね」と田積は補足する。
多くの診療科と専門職が関わり、〈口から食べる機能〉を守るために力を尽くすメンバーたち。齊藤は、その取り組みをさらに地域へと広げていく考えを持つ。「入院中に嚥下機能がかなり改善しても、自宅に帰ると元に戻る患者さんが数多くいらっしゃいます。そうならないように、在宅医療の現場でも継続してサポートしていきたいんです。すでに摂食嚥下障害看護認定看護師や言語聴覚士などが介護施設などに出向き、食事のアドバイスをしたり、勉強会を開催しています。そうした取り組みにもっと力を入れ、地域の方たちを支えたいですね」。〈口から食べる幸せ〉を、院内から地域全体へ。その大きな目標に向かって、齊藤たちはこれからますます摂食嚥下栄養サポート活動に邁進していこうとしている。
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