岡崎市民病院は、これまでがん医療に積極的に取り組んできた。手術では、精緻な手技を可能にする手術支援ロボット(ダビンチ)を導入。カメラを用いて小さな創で治療が可能な腹腔鏡下手術とともに、患者の体に優しい低侵襲手術の実績を重ねてきた。放射線治療では最新医療機器をそろえ、体への負担を抑えつつ最大の効果を発揮する高精度放射線治療を追求。化学療法では最新の知見に基づく標準的治療を実施し、手術・放射線治療・化学療法を適切に組み合わせた集学的治療を推進してきた。また、令和2年、がんゲノム医療連携病院に指定され、遺伝子変異に基づく新しい医療を推進。患者の遺伝情報を調べるがん遺伝子パネル検査を積極的に行い、治療方針の決定に役立てていこうとしている。さらに今春、待望の緩和ケア病棟がオープン。これによって、がん診療に必要な機能が全部そろい、同院のがんセンターが本格的に動き出したのである。
がんセンターを率いる村田 透センター長(医局次長、乳腺外科統括部長)に話を聞いた。「診断、手術、化学療法、放射線治療の各領域の機能、そして、緩和ケアや患者相談センターなどのサポート体制まで、ひと通りの機能がそろい、がん診療の質を総合的に高めていく基盤が整いました。その枠組みに、いよいよ私たちの精神といいますか、理念を吹き込んでいこうという段階です」。
では、同院のがんセンターは、どんな診療をめざしているのか。「診断・治療領域では、患者さん個々に合わせたオーダーメイドの治療に力を注いでいく考えです。とくに、がんの組織を顕微鏡で精査する病理診断を重視し、がんの種類や特徴を見極めた上で最も効果の高い治療プログラムを提案していきます。また、がんゲノム医療により、治療の選択肢がもっと広がっていくだろうと期待しています。こうした高度医療を積極的に展開することにより、〈がん診療連携拠点病院〉としての当院の役割、すなわち、地域のがん診療の連携の要となり、がん医療の水準を引き上げていく役割をしっかり果たしていきたいと思います」と村田は意気込みを語る。
オーダーメイドの治療を推進する一方、村田ががん診療のキーポイントとして重視するのが、緩和ケアだ。「高度医療の追求はもちろん大事です。でも、実は患者さんの身体的な痛み、精神的な苦しみを和らげることこそ、がん診療の基盤であり、がん診療の質の向上に繋がると考えています。その意味で、愛知県がんセンター愛知病院で培ってきた専門的な緩和ケアのノウハウを統合し、20床の緩和ケア病棟を用意できたことは、非常に大きな前進だととらえています」と村田は話す。
村田が緩和ケアを中心とする患者支援を重視するのは、自身が乳腺外科医として、常に患者の生き方を第一に考えてきたからだ。「患者さんは誰でも手術を受けたいかというと、必ずしもそうではありません。標準治療を拒んだとしても、決して本人を責めてはいけない。治療は手段であり、生きることが目的なんです。患者さんがどんなふうに生きたいか、という一人ひとりの意思や価値観を尊重し、そこに向かって最善の医療を提供することが私たちの役割だと信じています。また、残念なことにがんが再発して、治療法がなくなった場合も、患者さんが納得して自分の一生を終えられるように支えていく。最初の診断から終末期まで、ずっと支えるがんセンターに育てていきたいですね」と話す。
がんという病気は、治っても再発のリスクがあるし、治らないがんと一緒に生きていかねばならないこともある。同院は市民の生活に最も身近な病院として、一人ひとりの人生に密着したアプローチをめざす。「〈生き方に寄り添うがん診療〉という考え方を、私たちがんセンターの背骨におきたいと考えています。そして、スタッフ全員がその思いを共有し、高度な医療と手厚いケアを融合させながら、がん患者さんが望む生き方を叶えていきたいと思います」と村田は決意を新たに、こう締めくくった。
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