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岡崎市民病院
確定診断のむずかしい肺がん。
専門医の知見を集め、正しい診断を導き出す。
岡崎市民病院では、呼吸器内科、呼吸器外科、放射線科の医師が集まり、隔週で呼吸器疾患の症例に関する合同カンファレンスを開いている。この日も、いくつかの症例に対して、診断や治療方針について議論が交わされた。
最初に、肺にうっすら淡く映った〈すりガラス状陰影〉のCT画像を見せながら、呼吸器内科統括部長の奥野元保が口を開いた。「5年前にCTにて陰影が発見され、それから毎年、経過を観察してきた患者さんです。今回、陰影の中に濃厚な部分が出現しており、おそらく肺がんではないかと思われます。PET-CT検査(特殊なカメラで撮影し、がん細胞の増殖や転移、悪性度などを把握できる検査)をしたところ、遠隔転移はなかったので、手術でよいと思います。どうでしょうか」。集まっていた医師たちは画像を覗き込み、二、三の意見を交わし、患者の年齢や体力も確認した上で、手術療法を提案することで合意した。
こうした合同カンファレンスの意義について、奥野は肺がんという病気の特質を踏まえて次のように語る。「肺がんは、とても判定のむずかしい病気なんです。胃がんや大腸がんでは、内視鏡で病変が直接観察できるので、組織をつまんで取り、病理検査を行うことができます。でも、すりガラス状の陰影もそうですが、肺の小さな病巣からの細胞の採取は困難で、確定診断率は低くなります。また周囲のリンパ節に転移しているかどうかは、実際に手術しないとわからないことが多くあります。したがって、〈がんかどうか〉という見極めに際しては、主治医が一人で判断せず、呼吸器外科、放射線科の医師たちの意見を聞いて多面的に検討することが非常に重要なのです」。
さらにカンファレンスでは、治療方法についても十分に吟味を重ねる。「肺がんの手術によって肺を切除すれば、必ず肺機能は低下するので、生活の質が落ちることがあります。放射線治療の方が肺機能の低下は少なくその後の人生を楽に過ごせます。当院では治療選択についても各科専門医で根治性や侵襲性を考慮して慎重に検討しています」と、奥野は話す。
肺がんの診断において、重要な役割を果たしているのが放射線科である。放射線科では、院内で撮影されたCT、MRI、PET-CT検査について、放射線診断専門医が丁寧な診断レポートをつけて提出している。放射線科統括部長の荒川利直に話を聞いた。「同じ肺の画像を見ても、〈がんかどうか〉という見立てについて、呼吸器内科・外科の医師と私たちとで異なることもあります。そこでしっかり議論して正しい診断に貢献できるところに、放射線科の存在意義があり、やりがいを感じています」。
また、全身を見るPET-CT検査では、思いもよらないところにぽつんと1カ所だけがんが転移していることもある。放射線診断医は、そうした小さな病変も決して見逃すことはない。「当院には最新の画像検査装置がそろっていますが、私たちの誇りはそこではありません。精密な検査はもちろん、その上で一例一例を丁寧に分析し、カンファレンスで患者さんのベストの治療法を求めていく。その誠実なチームの姿勢こそアピールしたいと思います」と荒川は語る。
放射線科には、地域の診療所からの検査依頼も多く寄せられる。「院内だけでなく、地域の先生方の診断を支えることも私たちの使命だと考えています。画像診断レポートも必ずつけますから、病気の疑いがあれば、早めに患者さんを紹介してほしいですね」と、荒川。
その言葉に、奥野も深くうなずく。「肺がんは進行しないと症状が現れにくいので、地域の先生方の気づきがとても重要です。発見や診断において、先生方としっかり連携することで、一人でも多くの肺がん患者さんを救っていきたいと思います。また、市民の皆さん自身も、健康診断や肺がん検診を積極的に受けてほしいですね。肺がんは早期に見つかれば完治が望めます。自分と家族を守るために、必要な検査を後回しにすることなく受けていただきたいと思います」(奥野)。
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