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岡崎市民病院
多職種によるチーム医療の力を発揮し、
手術室の運営管理を強化していく。
岡崎市民病院には手術室13室、ハイブリッド手術室(手術台と血管造影装置を組み合わせた手術室)1室があり、連日、多様な症例の手術が行われている。さらに、2020年からロボット支援手術も導入され、医療の高度化が進められてきた。こうした手術室の運営管理を強化するために設立されたのが、手術センターである。センター長を担う長井辰哉医師(副院長を兼任)に、そもそも手術とは何か、というところから話を聞いた。
「そもそも手術は人の体を傷つける行為です。それが許されるのはメリットが大きいからですよね。ですから手術はできる限り体への負担の少ない低侵襲手術が理想です。ただし、低侵襲手術は傷の小ささを指すだけでなく、施術時間が短いことも重要な条件です。手術の時間がかかればそれだけ合併症などのリスクも高くなるからです。このように傷の大きさ、時間、患者さんの状態などをコントロールすることが、適切な手術を行う上で大前提になります。私たちは常に全体を見つめて、適切な手術を判断しなくてはなりません」。
そうした基本原則を前提にして、長井が2021年に立ち上げたのは〈高難度新規医療技術評価部会〉だ。これはどんな組織だろうか。「手術に新しい技術を取り入れようとするとき、その技術が妥当かどうかを客観的に評価する委員会です。まず初めに、各診療科から新しい手技について申請してもらい、当院でやるべき技術かどうか、安全に行える体制があるかどうか精査します。技術の導入を認めた後も、さらに10例、20例と症例を継続してモニタリングし、問題はないか、改善点はないか、検証していきます」。
同委員会にはこれまでに十数種の手技の申請が寄せられ、一つひとつ丹念に評価され、導入に繋げてきたという。「医療の高度化には当然、チャレンジが必要ですが、やみくもに挑戦するだけでは患者さんの安全性を担保できません。第三者の目で厳しくチェックすることで、手術の質の向上を促すことができます。また、こうした委員会があることは、チャレンジする側にとって安心感にも繋がっているようです」と長井は話す。
手術と聞くと、手術室で高度な治療を受ける濃密な時間を想像する。しかし「手術とは必ずしも手術室の行為だけを指すものではない」と長井はいう。「最近は、外来で手術を決めたときから始まり、自宅へ帰って生活を取り戻すまでが手術だと言われています。とくに近年は高齢患者さんが多く、主疾患のほかにもいろいろな問題を抱える人が増えています。
そういう方に対し、手術前に看護師、管理栄養士、理学療法士などがアプローチして適切な体調管理を支援していく。手術後もすぐに栄養療法やリハビリテーションを始め、生活復帰をめざしていく。こういった多職種の取り組みが非常に重要になってきました。当院でもそうした多職種による周術期チームの本格的な取り組みに着手したところです」(長井)。
かつては難易度の高い手術ほど素晴らしく、スーパードクターが賞賛される時代もあった。今ももちろんそうした側面もあるが、それよりもチーム医療へとシフトしてきたのだろうか。「そう思います。昔は医師に誰も意見を言うことはできない風潮がありましたが、それは間違いですよね。また、今はロボット支援下手術などにより、誰でもトレーニングを積めば標準的な手術ができるようになりました。そういう時代の変化に合わせて、私たちの手術に対する意識も変革していかねばなりません」(長井)。
最後に、今後の手術センターの目標を聞いた。「地域の皆さんはまず病気になると近くの病院にかかると思います。でも、手術を受けるとなると、遠い病院に行くケースも多い。それだけ、患者さんにとって手術は命懸けの闘いなんですね。だからこそ、当院で大学病院に匹敵するレベルの手術を行うことで地域の方に信頼していただく。さらに、遠方の方からも当院で手術を受けたいと思っていただく。そんなふうに多くの皆さんに選ばれる病院になることが目標です」と長井は力強く語った。
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