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ヨナハ総合病院
病院と在宅を行き来しながら、
安楽に過ごしていけるよう全力でサポートする。
ヨナハ総合病院の地域包括ケア病棟には、在宅療養中に持病が悪化するなどして入院している患者が多い。80代のAさんもその一人。糖尿病のコントロールがうまくいかなくなり、入院しているが、今回が11回目の入院になる。主治医の飯田邦彦副院長(内科)に話を聞いた。
「最初は4年前、心不全の発作で救急搬送されてきたのがAさんとの出会いでした。検査の結果、重い心臓弁膜症(心臓にある4つの弁がうまく動かなくなる病気)とわかり、間質性肺炎(肺の壁が硬くなり、呼吸がしづらくなる病気)も認められました。さらに、もともと糖尿病を患っていて、脳梗塞の既往があり後遺症も残っていました。私は心臓病を専門としていますが、心臓弁膜症を中心に、全身の病気をトータルに診ていくことになりました」。
その後、Aさんは入院して薬物療法と同時に、ADL(日常生活動作)を改善するためのリハビリテーションに取り組み、徐々に元気を取り戻していった。退院後は療養病棟や施設に移る、という選択肢もあったが、Aさんは息子さんが待つ自宅へ帰りたい、という強い希望があった。どうすれば叶えられるだろうか。飯田をはじめとする病棟スタッフたちは知恵を絞り、症状が変化するたびに、きめ細かく作戦を変えていった。
「まず必要だったのは、心不全発作への対応です。夜中に急に胸が苦しくなる場合に備え、在宅酸素療法を導入。苦しいときは早めに酸素を吸って、薬を飲んでいただくようお願いしました。また、去年から糖尿病のインスリン治療を開始することになり、ヨナハ訪問看護ステーションのスタッフに毎日、通ってもらう体制を整えました」と飯田。これだけ手厚い医療サービスを提供する体制を整え、さらに病状が急変したときはいつでも入院できるように備えた。「心臓弁膜症も肺炎も命に関わる病気です。そのリスクを抱えながら、在宅で過ごすのはとても不安があると思います。しかし、私たちが在宅医療チームと一緒にきめ細かく見守ることで、できるだけ今の状態を維持しながらご自宅で安楽に過ごせるよう支えていきたいと思います」と飯田は話す。
Aさんのようなケースの在宅療養を実現させたのは、手厚い医療サービスだけではない。生活面を支える医療ソーシャルワーカーの谷川洋介の奮闘があった。谷川はケアマネジャーなどと連携し、どうすれば在宅生活が続けられるか念入りに検討を重ねていった。「最も苦労したのは、医療保険と介護保険の狭間をうまく繋ぐことでした。両方の保険をできる限りうまく活用して、経済的な負担を軽減しながら、ご自宅での生活を続けられるように。また、ご家族が在宅介護に疲れた時はレスパイト入院(医療保険で短期入院を受け入れる制度)も活用してもらうよう工夫しています」と話す。
Aさんのように、ときどき入院しながら在宅療養を続ける患者は年々、増加傾向にある。そうした患者のニーズに応えるために、同院では支援体制を徐々に強化してきた。「現在は毎週金曜日、多職種が集まり、入退院支援カンファレンスを開いています。帰りたい気持ちはあるけれど迷う、という人に対しては精一杯背中を押して、在宅療養できる環境づくりに取り組んでいます」と谷川は説明する。そのカンファレンスには、飯田も必ず出席する。「スタッフはみんな高い意識を持ち、医療だけでなく生活や経済状況も踏まえて必要な支援を考えてくれています」と評価する。ただし、課題もある。「慢性的な医師不足が続いていて、なかなか在宅療養支援までフォローできない部分もあります。令和3年秋の新築移転に向けて、内科の医師が増強されつつありますから、大いに期待しています」(飯田)。
複数の病気を持つ高齢の患者にとって、病院での医学管理を受けることだけが選択肢ではなくなっている。「医学的には少し妥協しても、お家に帰りたいという方もいらっしゃいます。患者さんにとってベストな選択を考え、患者さんが安心して生活を送れるよう支援していきたいと思います」。そんなふうに飯田は締めくくった。
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